『アナタハン』

太平洋戦争中、サイパン島近くの小島アナタハン島で、多数の兵士等の男と、たった一人の女性が5年間を過ごしたという実話にもとずく作品。
監督は、ジョセフ・フォン・スタンバーグで日本に来て、京都の岡崎勧業会館をスタジオにして99%はセット撮影で作った。
スタンバーグは、『モロッコ』もスタジオで作ったのだそうだ。
画面の美しさを求めれば当然スタジオ撮影になる。
カメラは数年前になくなられた岡崎宏三さんで、当初は円谷英二だったが、途中でクビにされ岡崎さんになった。

話は、一種の際物だが、昭和28年なので、表現は極めて抑制的。
主人公の女性は、根岸明美、男たちは中山昭二と近藤宏以外は誰か分からなかった。この二人は後に、新東宝と日活で活躍するが、このときはフリーだったらしい。
この映画は、スタンバーグが単身来て、東和映画と大沢商会の提携で制作されたので、特に映画会社の専属俳優を使ったわけではないからだろう。
全編にわたり英語版のナレーションが付く。
日本での公開はどのようにやったのかは知らないが、ナレーションが被さるので、全体にメルヘン的な語り物めいた感じがして、一人の女性と男性多数という煽情性は薄くなっている。
なぜ、スタンバーグがこの話に興味を持ち、来日したかは、不明。
彼は、晩年は不遇だったらしいが、岡崎さんが『ザ・ヤクザ』でロスに行った後に寄ると、すでに死んでいたが日本でのことは良い思い出として家族に話していたそうだ。
言うまでもなく、彼も一種の日本趣味、エキゾシズムで、『モロッコ』も異国趣味である。
フィルム・センター

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