『兄とその妹』

鉱業会社調査部のサラリーマン池部良は、妻原節子と東京郊外に住み、妹司葉子と同居している。
司は、商事会社社長斉藤達郎の秘書・タイピスト。英語も堪能で高給取り。

池部は学究肌で、社内の出世競争にも全く関心がないが、重役柳永二郎とは「碁敵」で、柳の邸宅に出入りしていることから、様々な憶測や噂を呼んでいることを、池部は夢にも思っていなかった。
司葉子に、柳の甥平田昭彦から求婚があり、池部も原も良縁と進めようとする。
司は、社内で池部を良く思わない係長加東大介、職員伊豆肇、給仕井上大助らの話を喫茶店で偶然聞いてしまう。
兄の社内での立場を考えて、司は結婚話を断る。
人事異動があり、池部は係長に昇任すると、加東が池部のやり方をなじりにわざわざ来て、二人は大喧嘩になる。
会社にいては妹が結ばれないと考えた池部はついには辞表を出す。
会社の元同僚で、経理事務所をやっている親友小林桂樹に励まされ、池部は自分の選択が正しかったことを確信し家に戻る。
最初のシーンと同じ、家に戻る夜中に道路で会う警官は、お馴染みの脇役佐田豊。

池部と司が互いを思いやる兄妹愛は、普通絵空事になるものだが、松林宗恵監督は丁寧に日常生活を描写し、感動的な結末に導き、最後は涙が出た。前半はまるで小津安二郎映画のようにドラマがなく進行する。

この当時、池部は筧正典監督の『重役の椅子』でも正義派のサラリーマンを演じているが、これもその系列である。
正義を貫くとであると同時に、友情に厚いという池部の役柄は、後に東映ヤクザ映画の『昭和残侠伝』シリーズでの、高倉健の花田秀次郎と池部の風間丈吉との友情になる。

この映画は、戦前に松竹大船で島津安次郎監督により映画化されたものの再映画化で、島津作品では佐分利信と桑野通子だったそうだ。
本当は、次に上映された『青春ジャズ娘』を見たくて行ったのだが、これは大傑作でとてもうれしくなった。
ラピュタ阿佐ヶ谷。

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コメント

  1. 辞表の注意点

    終身雇用制が崩壊した現在、一度は通る道かもしれませんね。
    いざと言う時に困らないよう、辞表(退職届)の書き方を学んでおいて損はないはずです。