『黒の報告書』

ツタヤにあったので借りる。
増村保造監督なので、『黒の試走車』のような産業スパイものだと思っていたら、増村得意の『妻は告白する』と同様の法廷劇で、最後まで二転三転の実に面白い傑作だった。

千葉の自宅で、東京の会社社長が殺される。
犯人は、元は社長の秘書で、社長の若妻近藤美恵子とできている神山繁で、社長から闇で預かっていた金と社長の妻との情事から。
若い検事宇津井健は、老刑事殿山泰治の助けを借りて捜査し証拠を固め裁判に臨む。
だが、老練な弁護士小沢栄太郎が現れ、関係者を買収して証人を偽証させて無罪を勝ち取ってしまう。

無罪判決で宇津井の東北への左遷の朝、途中で検事調書の証言を翻して偽証した社長の秘書で愛人の叶順子が来て、「自分は偽証罪で捕まっても良いから、神山、近藤らの悪人を捕まえて」と。
宇津井は、殿山に言う。
「また、人間を信じられそうだ。甘いかな」
増村は皮肉で辛らつな映画も作ったが、最後は人間、特に女の情念を信じていたことを示す作品だろう。
その辺が、晩年になるほど人間を信じなくなった中平康との差である。

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