『細雪』映画の戦後史

谷崎潤一郎の名作『細雪』は、「戦時中にこんな上流階級の贅沢な話は時局柄好ましくない」として、戦時中は発禁処分だったが、戦後はベストセラーになった。
そして、映画化は3回されている。

最初は、1950年の新東宝で、監督は阿部豊である。
長女は花井蘭子、二女轟由起子、三女山根寿子で、そして主人公は意外なことに四女の高峰秀子である。
この四女は、駆け落ちをして新聞沙汰になったり、奥畑の啓ボンを振ってカメラマンの男と一緒になるなど、原作ではやや否定的な女だが、恐らく戦後の新しい時代の女性とみなされたのだろう、主人公になっている。

2回目は、1959年の大映で監督は島耕二である。
ここでのい配役は、長女が前回の二女から上昇して轟由起子、二女は京マチ子、三女は山本富士子、四女は当時のフラッパーの代表的女優の叶順子。
これは総花的な作品で、多分山本富士子が主役だったが、京マチ子にもウエートがかかっていたように思う。
大映の特撮で、神戸の台風のシーンもきちんと再現されている。全体に丁寧だが、焦点の定まらない作品だった記憶がある。

3度目で、現在は最後の『細雪』は、1983年東宝で監督は未だお元気な市川崑である。
長女岸恵子、二女佐久間良子、三女吉永小百合、四女古手川裕子だった。
ここでの主役は、言うまでもなく吉永小百合で、ここでは何もせず、だが一番の良縁を勝ち取る幸福な役になっている。
「何もしないのが一番」という当時の日本の世相を表現していたと思う。
そして、この市川作品が面白いのは、二女佐久間の夫の石坂浩二が実は義理の妹の吉永小百合に惚れている、という話を入れていて、彼の悲しみを表現していることだ。
明確な記憶がないが、これは谷崎の原作にはなかった視点だと思う。
そして、この市川崑作品が、優れているのは、岸恵子とそのケチな銀行員伊丹十三の大阪船場から東京への引越しを通して、小津安二郎作品のごとく「日本の家の崩壊」を描いていることである。
大変豪華な映画だったと思う。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

コメント

  1. 銀行 より:

    銀行

    銀行だ!!!