勝新太郎の空海は

山本信太郎という赤坂にあったクラブのニューラテン・クォータアーの社長もやったこともある人の『東京アンダーナイト』を読んだ。

目の前で目撃した力道山刺殺事件等も興味深いが、一番面白いのは1984年に北大路欣也主演で作られた映画『空海』の当初のエピソードである。

当初、この映画は山本氏とは兄弟分だった勝新太郎の主演で企画されていて、勝らご一行様はプロデュサーと高野山に登った。
そこで勝は、空海は中国から経典と共に「エロ本も持ってきたに違いない」主張した。
そして、空海のことを詐欺師、山師と喝破した。
たしかに書や語学の天才であり、天皇、貴族らを手玉に取って騙した他、日本国中で大土木工事もした空海は、日本の歴史上他にいないレオナルド・ダ・ビンチのような大天才であり、別の言葉で言えば大山師である。
勝は、その人間空海を描くため、
「空海がマスターベーションをして精液が壁に飛び散る様を撮りたい」と言い、それこそ人間空海の表現だと高野山で学僧を前に大演説したそうだ。
それは勿論無理でも、それに近い表現はやればすごかっただろう。
だが、勝では余りに教祖様を描くには、違いすぎるということで、駄目になったそうだ。

完成した佐藤純也監督作品は北大路主演で、そうした人間くさい表現は何もなく、ただの偉人伝で面白くもおかしくもなかった。
黒澤明の『影武者」と言い、勝新太郎がやっていればさぞや面白かっただろうと思う作品は多い。
勝の豪快なユーモアは、今や誰もいない。

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