役者としての伊丹十三

NHKBSが、伊丹十三監督作品を放映した。
私は、最初の『お葬式』は面白く,『マルサの女』も封切りで見て感心した。
だが、テレビで前作の『タンポポ』を見てから急に見る気がなくなった。あのトリビアリズムが不愉快になったからだ。
その後は、大江健三郎原作で、不入りだった『静かな生活』以外見ていない。
今回の放映で『マルサの女2』と『スーパーの女』を見て、かなり感心した。
役者の演技に手抜きを許していないことにである。
伊丹は、長く役者をやっていたので、役者の演技が分かり、その手抜きを許さなかったのだろう。その点は大いに評価に値する。

伊丹は、言うまでもなくシナリオライターで監督の伊丹万作の息子として生まれ、1960年に大映から役者伊丹一三としてデビューし、大江原作、増村保造監督の問題作『偽大学生』等に出ている。
その後渡欧し、『ロード・ジム』や『北京の55日』等に出た後、帰国し日活で、浅丘ルリ子出演100本記念映画の『執炎』(これは、後に百恵・友和映画で『炎の舞』として映画化される)に主演した他、多くの映画に出ている。
インテリの役が多く、大島渚の『日本春歌考』の先生が典型だろうが、この頃で一番印象的なのは、加藤泰の安藤昇主演のヤクザ映画『男の顔は履歴書』で、安藤の弟で朝鮮人娘真理明美と恋仲になってしまい殺される大学生だろう。
その後、日活ロマンポルノ時代の秋吉久美子主演の、藤田敏八の名作『妹』で、秋吉の義兄のイアラストレーターで、村野武典にいきなり肉体関係を迫り、拒否されると自殺してしまう役も印象的だった。
そこでは、伊丹は、義理の兄弟になる村野から、秋吉の夫だった大門正明と秋吉のことをいろいろと聞かれても、すべて「いいんじゃないんですか」としか言わず、すべて肯定する。
当時、この伊丹の言い方は、私たちの間で流行したものだ。
「いいじゃないんですか」と。

また、市川崑の名作『細雪』での長女岸恵子の夫で、ケチな銀行員役も実にぴったりだった。
また、東陽一監督、桃井かおり主演の日本ATG史上最高のヒット作『もう頬づえはつかない』の、主人公桃井かおりにアパートの部屋を貸している大家も良かった。
いつも家のことをやっていて、桃井が「いい花ですね」とか言うと
「別に誉めなくてもいいですよ」と軽くかわす軽い演技が良かった。
野村芳太郎の松本清張原作の政界そっくりショー映画『迷走地図』での、田中角栄そっくりの台詞まわしなど、結構器用な役者だったのではないか、と私は思っている。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする