『南の島に雪が降る』

俳優加東大介が、戦時中に西部ニューギニアで体験した戦時中の実話に基づく映画。
加東の話は有名で、映画の前に劇になっているが、その前にも彼はいろいろなところで体験を話しており、私は兄の大学の文化祭で聞いたことがある。
聞くも涙、語るも涙の実話である。

ニューギニア西部の日本軍は、アメリカの攻勢に全くの守勢にあり、兵たちはすることもなく、ただ乏しい食糧でやっと生きているだけ。サツマイモやトカゲが最大のご馳走なのだから、すごい。

絶望的な状況で、元前進座の役者だった加東は、兵士を慰撫するために演芸隊の組織を命じられる。
演芸分隊と名付けられ、各部隊から腕自慢の者が集ってくる。
中では、東北の団十郎と自称する伴淳三郎、実際に役者としてかなり有名だった如月寛太を詐称する渥美清、さらに公演になると食料を持って駆けつける三木のり平らが笑わせる。
他にも、飢餓寸前の遠隔地の分隊長小林桂樹、東部に決死の出撃に行く部隊長の森繁久弥などの豪華キャスト。
この辺は、主演の加東への友情だろう。
この映画の企画が、東宝に長い間脇役として貢献してきた加東大介への会社のご褒美である。

原作は言うまでもなく加東大介、劇化は小野田勇、脚本は笠原良三。
監督は、東京映画で娯楽や文芸作品を多数作った久松静児。

この映画は、戦争の悲惨さ、また滑稽さ、その中でも芸能を求める人間の本性を描いていて大変面白い。
ただ、このとき、アメリカでは戦場の兵士のために、特別のレコード盤(Vデイスクと言い、パラシュートで落としても割れないように、当時のSP盤ではなく、特殊なビニールディスクを開発した)を作り、世界中に供給していた。
実は、当時「レコード吹込ストライキ」があり、正規のレコード制作は行われていなかった。
だが、このVディスク(Vとは言うまでもなくビクトリーである)は、戦争のため特別で、多くのポピュラー・アーチストも吹き込んでおり、現在では芸能史の狭間を埋める記録として歴史的にも貴重なものとなっている。
彼我の差は、そのくらい大きかったのだ。

本質的に言えば、戦争を特別な大事件として決死で戦う日本と、戦争も日常生活の延長として普通に生活し戦うアメリカとの差異である。
短期的には日本が勝つが、長期的には普通に生活し、戦うアメリカの勝利になってしまう。

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