最低劇場で『明石原人』を見る

最低劇場とは、六本木の俳優座劇場である。
ここの階段は急傾斜で本当にひどい。到底まともな人間が作ったとは思えない。
千田是也らの左翼インテリが、障害者や高齢者のことを考慮しない想像力の欠如した人間だったことの証左である。
俳優座と歌舞伎座は、観客に高齢者が多い劇場だが、どちらも階段のみで、エスカレーター、エレベーターが全くない。
文化行政は、芸術振興策の第一歩として、劇場設備のバリア・フリー化を進めるべきだと私は思う。新国立劇場の演劇部門の芸術監督鵜山仁を首にすることよりも、遠山理事長はこうした地道な施策こそに頑張るべきであろう。

民芸の『明石原人』は、戦前「明石原人」の人骨を発見した直良信夫(千葉茂則)と彼を献身的に支えた妻・音(日色ともえ)の物語である。
脚本は小幡欣冶、演出丹野郁弓。
明石の海岸で直良は、旧石器時代の人間の人骨を発見するが、学歴、業積のない彼は学会で認められない。
時代は戦争に向かい、古代研究自体が神代神話に触れるからと迫害されるようになる。その中で、無職・無収入の直良の研究を妻の音は教職で支えて行く。
戦後、考古学も自由に出来る時代になり、直良は早稲田大学から博士号をもらう。
日色が、かつて日本にいた、献身的な女性、母親を演じて大変良かった。
役者は、杉村春子が粋筋の女性を演じ、その通りと思わせたように、ある日本人の典型を演じられるようになれば一人前だが、日色はその域に達していた。
千葉も、素朴で研究一筋の男を演じ、いまどきの役者にはない生活感があった。
民芸は、役者が全体に上手く、きちんと演じるので見ていて気持ちが良い。本来当然のことだが。
外に出ると、激しい雷雨だった。

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