沢木耕太郎

随分前に古本屋で買ってきたもので、あまり気が進まなかったものだが、出来は良いとは思えない。
父親が急に死んでしまい、ドラマが途中で急に終わってしまう。父親の無名に徹した生き方の理由など、多くのことが解決されないで終了してしまう。
もし、他人なら、突然死んでも、周辺の人を取材して理由を調査しただろう。だが、肉親であったためか、調査はせず、残りは父が作っていた俳句を句集として編纂する経緯になってしまう。

沢木氏が育ったのは、この本にも書いてあるとおり大田区池上で、多分私が出た隣の小学校と中学を卒業している。
彼を一度だけ見たことがある。
大学時代の連中とやっていた劇団の公演を、彼がある日見に来たのだ。主演女優が銀座のクラブで働いていて、多分切符を買わされたのだろう。
ミリタリー・ルックにサングラス、とても背が高くて大きな体だった。

彼の書くものは、月間『エコノミスト』に連載していた当時から注目していた。
中でも、プロ・ボクシングについて書いたものが大好きだったが、一度だけ違うと思ったのがある。
世界バンタム級タイトル・マッチで、無敵の王者「黄金のバンタム」ブラジルのルーベン・オリバレスに挑戦した金沢和良のことだ。
沢木は、金沢のことを二流ボクサーと書き、だがオリバレスとのタイタルマッチでは、だが必死に戦ったと記述していた。
しかし、私の考えでは、金沢和良は、日本人ボクサーの中でも相当にレベルの高い選手の一人で、二流ではなかったと思う。
多分、20年くらい前までは、沢木の作品は出れば必ず読んでいた。
最近読まなくなったのは、やはり年の性なのかもしれない。
彼の文章の持つ魅力、すなわち一種の青臭さが自分を見るようで嫌になったのだろうと思う。