『憎いあンちくしょう』

この映画を最初に見たのは、今は駐車場になってしまった蒲田駅東口の蒲田パレス座だったと思う。
蒲田パレス座は、日活系の三番館だったが、制作力が落ちた1960年代中盤以降は、空いた週を「赤木圭一郎週間」とか「鈴木清順週間」等をやっていて、私は古い作品を随分見ることができた。
これも蔵原特集で、『何か面白いことないか』と一緒に見たと思う。
その後、新宿国際等で見て興奮した。
今では、勿論ビデオで持っているが、久しぶりに大画面で見て感動し、泣きましたね。

クライマックス近く、博多祇園山笠の群集に巻きこまれ、裕次郎から救い出されたとき、浅丘ルリ子は言う。
「私を捨てないで! 私を連れて行って!」
「お前は馬鹿野郎だ!」
そこから、一気に興奮が高まり、山越えではジャガーが谷底に落ちるが、二人はジープに乗り換え熊本の無医村に向かう。
この辺の映画的興奮の高まりは、まず他にはなく、きわめて実存的だと思う。

この映画が今も輝いているのは、タレント北大作の石原裕次郎が、熊本までジープを届けるため、背広を脱ぎポロシャツになり、ルリ子もスラックスで後を追うという、普通のラフな姿になり、彼らの実像を見せているからだと思う。
その意味で、この映画はロケーションが多く、ドキュメンタリー的である。
そして、ここで実験されたロケーションでスター映画を撮影する方法は、後の日活ロマン・ポルノにつながる。
チーフ助監督は藤田敏八(繁夫)で、主題歌の作詞もしている。

北大作がやつているラジオ番組『今日の三行広告から』は、知る人ぞ知る、昭和30年代にラジオ関東で永六輔、前田武彦、富田恵子らがやっていた、日本のトーク番組の嚆矢『昨日の続き』である。そして、主人公北大作のモデルは、永六輔なのだそうだ。
永は、当時は大変な人気タレントで日活に出入りし、舛田利雄の映画『零戦黒雲一家』では、ギャグ監修となっている。
ともかく、こんな実験的作品が大スターの商業映画として作られていたとは信じがたい。

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