市川右太衛門映画を見て

BSで録画しておいた市川右太衛門主演、1955年松田定次監督の『風雲将棋谷』を見る。
江戸で、怪事件がおき、犯人は容貌魁偉のさそり使い薄田研二とすぐわかる。
だが、将棋谷という理想郷のような豊かな「隠れ里」が信州にあり、そこのご落胤が、実は遊び人の歌右衛門で、隠れ里の姫君長谷川裕見子と恋仲になり、と筋書きを書けば、東映映画を見ている者なら、それは加藤泰監督、大川橋蔵主演の名作『風の武士』と同じ趣向であることに気づくだろう。

そう、司馬遼太郎の原作『風の武士』は、角田喜久雄の伝奇小説『風運将棋谷』の改作だったわけだ。後に歴史小説の作家となる司馬だが、初期にはこうした伝奇小説も書いていたのである。『風雲将棋谷』は、角田の有名な小説で、戦前から映画化されていたそうだ。

さて、加藤・橋蔵作品が圧倒的に優れている点がある。
『風の武士』は、橋蔵と桜町弘子の絶対に結ばれない悲恋の青春映画になっている点で、これはすでに「御大」と呼ばれていたおじんの右太衛門にはありえない資質だった。
そこに目を付けて作品にした加藤泰は、やはりすごい監督だった。

中村錦之助に比べ、余り作品に恵まれなかった大川橋蔵だが、大島渚作品の『天草四郎時貞』などよりは、この『風の武士』や同じ加藤泰監督の『幕末残酷物語』などの方が良かったと後世には評価されるだろう。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする