『伊豆の踊り子』

全部で6回映画化されている、川端康成原作の『伊豆の踊り子』の3回目、1960年松竹大船で、監督川津義郎、主演鰐淵晴子。
恩地日出夫監督、内藤洋子の主演、西河克己監督の吉永小百合主演版、さらに山口百恵主演のものは見ているが、鰐淵版は今回が初めてだが、意外に良い出来で感心した。

筋書きは大差ないが、昭和初年、伊豆に旅に出た一高生・津川雅彦が、大島から来た旅芸人の少女の鰐淵と親しくなり、旅の中で様々なことを学ぶと言うもの。
一種のビルドウグス・ロマンであり、見方を変えればロード・ムービーでもある。
この川津義郎作品が優れているのは、旅芸人の生活や農民からの蔑視、あるいは伊豆の山奥の、農業から金鉱掘りに至るまでの人々の生活がきちんと描かれていることで、脚本の田中澄江の功績であろう。
田中澄江には、基本的に「男性嫌悪」があり、大映の『夜の蝶』等の京マチ子と山本富士子が、夜の町で競争する風俗シリーズでは、男性嫌悪が異常に出ていて気分が良くないが、ここでは余り出ていない。

役者では、鰐淵の母親で、一座のお師匠さんの桜むつ子が圧倒的に良い。
むしろ、映画の後半の主演は桜さんのように見える。
一座の花形の瞳麗子が、女衒中村是公の言葉にだまされて去り、鰐淵の姉の城山順子が流産し、周囲からも強く蔑視されたとき、桜は酒に悪酔いする。
だが、醒めると一人で下田の町を流しに出る。
その姿に鰐淵は、芸人としての覚悟を見る。
西河克己によれば、この作品の後半は「母もの」で、全体に貧しい者、弱い者への同情が強いのは、監督の川津義郎の人柄だそうだ。

また、太鼓を打ち、鰐淵の姉と出来ている男衆が田浦正巳で、いつものなよなよとしたやさ男だが、ここではぴったりの好演。
この人は、安井昌二や菅原謙二のように、映画の後は新派に入ればよかったのかも知れない。
山奥に視察に来て、東大出と権力をひけらかす嫌な高級官僚が、先週亡くなった佐竹明夫。
その他、農民、金鉱掘りの連中、下田の町の人間など、松竹大船の大部屋の俳優だったと思うが、彼らがとてもよく雰囲気を出している。
演劇評論家渡辺保さんがよく言う「集団のアンサンブルのよさ」である。
それは、アクション映画での日活やヤクザ映画の東映にもあった良さである。
この辺は、昔の撮影所のある種の「贅沢さ」で、現在には全くなくなってしまったものである。

鰐淵は、このとき15歳だが、とても可愛い。
その後の大きな変貌振りから見れば、女性は実に変わるものだと言うしかない。
フィルム・センター

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