ミック・ジャガーの芸質

ローリング・ストーンズのビーコンシアター公演のドキュメンタリー『シャイン・ア・ライト』を見て、私がなぜそれほどにローリング・ストーンズが好きではない理由がよく分かった。
ミック・ジャガーの芸は、芸を「型」と「心」に分ければ、型に属することが分かったからだ。
私はやはり心で歌う、ヴァン・モリソンやブルース・スプリングスティーンの方が好きなんだなあ、とつくづく思った。

ミック・ジャガーの表現は、本質的に型であり、歌もステージ・アクトも多分、毎回ほとんど変わらないと思う。
それは、彼の芸質が、歌もアクトも基本的に外面的な形式に依拠しているものだからで、だからあの年でも十分にワイルドな表現が成立するのだ。

日本の演劇では、歌舞伎や新派が典型的な型の演技だが、そこの役者はどんなに高齢になっても、中村雀右衛門や水谷八重子のように娘役が出来る。それは、加齢とは無関係な型だからである。
それに対し、ヴァン・モリソンやブルース・スプリングスティーンでは、そのときの彼の心情によって表現は大きく変化する。心で歌うのだから、その時々の心情によって変わるはずで、でき不出来もあると思う。

これは、どちらが良いとか優れているとか言う問題ではなく、芸質の差なのである。
ミックは、そうした自分の表現の性質をよく知っている。
だから、公演が単調にならないように、バディ・ガイや女性シンガー、あるいはカントリー・ナンバーまでやってライブに変化を付けている。
勿論、優秀なスタッフがいるのだろうが、さすがに自分をよく分かっているシンガーだと改めて感心した。
横浜黄金町シネマ・ベティ

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