『洗脳選挙』 三浦博史(光文社) 952円

洗脳選挙と言うので、テレビの電波でも使って選挙民を洗脳して投票させる、「サブルミナル効果」の選挙手法かと思った。
だが、中身は全く違い、選挙コンサルタント(というよりプロデューサー、演出家だが)の著者が、自分が手がけた新潟県知事選挙を例に、選挙PRの手法を描いたもの。

2004年10月の新潟県知事選挙のとき、三浦氏は自民・公明の推薦で通産省の若手官僚の泉田裕彦氏の選挙を手伝う。
そのとき他に、保守には2人、社民推薦の大学教授で地元テレビのキャスター多賀英敏氏、さらに共産党推薦の川俣幸雄氏が立候補していた。
そして、当初の劣勢を覆して泉田氏が勝つのだが、著者が取った手法が大変興味深い。
それは、一言で言えば、候補者の良いところを見せ、他候補とは違うところを強くアピールし、弱点は触れないということだ。
そして、普段やっていないこと慣れないことは、絶対にやってはいけないとしている。
その例が、昔の東京都知事選挙での磯村キャスターの銭湯入りであり、これは知らなかったが、埼玉県知事選挙での、当時副知事だった坂東真理子・品格おばさんの浦和レッズの赤いユニフォームを着ての出陣式だった。
品格おばさんにレッズの赤はない。
要は、普段やっていないことをわざとやってもアピールしないし、本人のイメージとズレて意味がなく、また選挙民にはウソを見破られるということだ。
これは、芝居での役者の演じ方、演出の仕方と大変よく似ている。

歌舞伎には、人(ニン)という考え方があり、「この役は、ニンだとか、ニンに合っていない」等と言う。
その人間には相応しい役、持ち味があり、いくら上手い役者でも、そのニンに合わないものはやっても意味がない、ということである。

ある意味、選挙は実に芝居、演劇と良く似ている。
そこには、テーマという争点があり、候補者という役者がいて、選挙戦という構成と仕掛け、筋書きがある。そこに上手く乗れば観客の喝采と有権者の投票を得られる。
演じるのは、そのニンに合ったはずの主人公で、相手には敵役もいる。
そして、最後には選挙民にどれだけ自分を理解してもらったかで、結果が出る。

4年前の小泉純一郎氏の「郵政選挙」などは、自作自演の最高の芝居だったわけだが、長年オペラや歌舞伎を見てきた彼からではのものと言うべきだろう。

最後に詳述されているアメリカの「ネガティブ・キャンペーン」のすごさには驚く。

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