田中重雄監督を評価しよう

川崎市民ミュージアムで、江波杏子主演の「女賭博師」シリーズの『女賭博師・尼寺開帳』を見て、面白いのに驚いた。
1960年代、大映では「同じ田中でも徳三はましだが、重雄は古臭くてだめ」と言う評価で、私も二・三見た作品は面白くなかった。
だが、数年前三島由紀夫特集で見た『永すぎた春』が良くて、「あれっ」と思ったのだが、シナリオが白坂依志夫なので、その性だと思っていた。
だが、この『女賭博師・尼寺開帳』もとてもよく出来ている。
シナリオは、大べテランの高岩肇。

「お邪魔します」の南州太郎はじめ、唄子・啓助、コント55号らを上手く挟んでいるだけでもすごい。
三条魔子と千波丈太郎の濡れ場もきちんとサービス。
お目当ての江波の大滝銀子の「入ります」の陸中手本引きの賭博シーンは、様式的に美しく撮る。
善玉志村喬の絡みも実に上手く裁き、最後は江波の腹違いの兄川津裕介が、立ち回りで悪人を滅多切り。
大滝銀子は、東映の藤純子の緋牡丹博徒シリーズとは異なり基本的に立ち回りはせず、そこが最後のカタルシスの不足になっていたが、ここでは上手く処理。

この田中重雄監督は、全く評価されていないが、あるいはマキノ雅弘に匹敵するような日本映画への功績があったのではないか、と思った。
「マキノ節」の臭さのない、マキノ雅弘とでも言うべきだろうか。
こういう本当の職人監督はもういないだろうね。
あえて言えば、テレビに転向した江崎実生くらいか。

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