『祇園祭』

1968年当時、日本映画の衰退を危惧し、東映を離れた中村錦之助が、尊敬する伊藤大輔の監修の下に、「日本映画復興」を掲げて作った大作。

監督は、当初伊藤大輔自身がやるはずだったが、諸情勢で伊藤の助監督をやったこともある東映京都の山内鉄也に。山内は、『忍者狩り』等の集団時代劇を作った監督の一人である。
脚本は、鈴木尚之と清水邦夫、出演は三船敏郎、岩下志麻、志村喬、さらに下元勉、小沢栄太郎、御木本伸介、佐藤オリエなど。
原作は西口克己、応仁の乱の頃、戦乱の中で祇園祭を再興した京都の町衆の姿を描くもので、当時の京都府、京都市の支援で出来ている。共産党系の人民戦線映画であり、裏には、ルポライター竹中労の暗躍があったのは有名。
だが、現場は大変で、言わば「独立プロ」で時代劇をやるのだから、衣装その他時代劇の手法を全く知らない素人スタッフで、大変だったそうだ。
その辺は、チーフ助監督だった宮島八蔵さんのネツトのサイト「宮島八蔵の日本映画四方山話」に詳わしく書かれているので、是非ご覧をいただきたい。

配給は、松竹映配の洋画系で公開され、意外とヒットしたらしいが、この映画の趣旨である「日本映画復興」にはならず、日本映画は現在の体たらくになる。
今回初めて見た感想は、「思ったよりひどくはない」ということだ。当時、中村錦之助のみならず、共演の三船敏郎、石原裕次郎らのスタープロにより、豪華顔合わせ映画、実は無内容な映画が多数あったが、ここにはそんなものはない。
中村錦之助の映画への情熱が全編を貫いている。
それにしても、中村錦之助の頑張りは偉い。
ワン・シーンのみだが、高倉健や美空ひばりまでが出ているのは、錦之助の人徳だろう。
小沢栄太郎が、町衆の首領で、実はずるい人間を演じるが、その下にいる保守的な親父は誰か分からなかったが、家に戻って思い出す、浮田佐武郎だった。
この人も、因業な親父役で多くの映画に出ていた。東宝の俳優だったので、ストライキ首切り組だったのだろう。
フィルム・センター「京橋小劇場」

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コメント

  1. ふるやま より:

    いじわる批評、これでもか以来のファンです
    指田さんの批評は、切れ味鋭くて毎回楽しみにしています。
    私も東京地方在住ですので、フィルムセンターにはちょくちょく行きます。
    最近、溝口健二の戦後すぐの作品を続けてみて、当時はスランプだった、柄にもなく民主主義啓蒙映画を撮って……という通説が嘘だと知りました。「夜の女たち」「わが恋は燃えぬ」も、溝口らしい描写で、ある意味で「雨月」なんかより立派です。「女優須磨子」も、芸道ものですね。
    さて、13日夜は「女性の勝利」を見るか「祇園祭」を見るか、悩ましい。「祇園祭」は、今回見逃したら、祇園祭の日に京都に行かないと見れないそうですし。

  2. さすらい日乗 より:

    どちらも悪くないが
    お読みいただき、ありがとうございます。
    先週、『祇園祭』を見て、結構立派な作品だなと思いました。『女性の勝利』も、2006年11月にフィルム・センターで見ていますが、GHQ指令の「民主主義映画」も、松竹ではメロドラマになるという好例でしょう。
    どちらかと言えば、『祇園祭』の中村錦之助の頑張りを支持したいと思います。

    日本映画の批評は、昔はその映画がヒットしたか、否かに影響されています。映画会社の意向に阿っていたのだと思う。だから、今の自分の目で見直すことが必要です。
    小津安二郎の『東京暮色』など、今見ると大傑作ですが、当時全くヒットしなかったことが酷評の根拠になっていると思う。

  3. ふるやま より:

    ご教授ありがとうございます
    ご教授ありがとうございます。
    13日は、とりあえず6時から「祇園祭」を見て、つまらなかったら、7時の「女性の勝利」にします。伊達に中学時代から映画を見ている訳ではないので、冒頭の30分を見れば映画の値打ちを見抜く自信はあります。
    「東京暮色」は昔見たきりですが、「風の中の雌鶏」同様、小津や溝口は、傑作とか失敗作とはレンクづけする作家ではないですね。
      

  4. ふるやま より:

    「祇園祭」最後まで観ました
    「結構立派な映画」という評価は妥当でした。さすらい日乗さんが書いておれれなかったら多分見なかったでしょう。観てよかった。
    しかし、もっと良くなる可能性がある映画ですね。例えば田中邦衛の役なんて、当然、岩下志麻を密かに愛している役のはずが、ただの付き人。この辺が物足りない、大味という印象を与えます。
    タルコフスキーの「アンドレイ・ルブリョフ」や「アルジェの戦い」にもなり得た題材なのに……。