『公認会計士VS特捜検察』 日経BP 1,800円

東証上場の会社だったキャッツの株価操縦をめぐり、有価証券報告書の虚偽記載を問われ一、二審とも有罪となった、公認会計士細野祐二氏の本である。
以前、ビデオ・ニュースで本人が出ての回も見たが、この本で読んで見ると実に、恐ろしいと言うか、面白い実話である。

そして、すぐに思い出したのは、平和相互銀行事件である。
日本のバブルの始まりの頃に起き、平和相銀の崩壊、住友銀行への吸収になった平和相互銀行事件で、「4人組」と言われた監査役伊坂重昭氏の役割に、細野氏の役割はとてもよく似ている。

キャッツは、シロアリ退治の会社で、社長の大友裕隆氏が一代で作り上げた零細だが、成長力のある優良会社だった。
だが、細野氏の努力によって、株式公開、店頭市場上場すると、大友氏は、本業を離れ、持ち込まれる様々な新規事業に手を出そうとする。シロアリ退治という3K仕事から、もっときれいなカッコいい実業家になろうとしたのであるが、苦労した大友氏としては、仕方ないことだろう。
それをいちいち検討、吟味し、止めさせるのが細野氏の役割になる。
この辺も、検事だった伊坂氏が、ある事件で平和相互銀行の創始者小宮山英蔵氏に気に入られたことから、入社し、顧問として小宮山氏が持ち込む新規事業を辞めさせる役を演じるようになり、ついには監査役になる経緯とよく似ている。

そして、小宮山氏がなくなると、小宮山家以外の人間たちと一緒に、小宮山氏の長男英一を退けて銀行の実権を握るようになる。
だが、小宮山家から川崎定徳への株式売却、最終的には住友銀行の保有によって、伊坂氏ら「4人組」は追放されてしまう。

このキャッツ事件でも、細野氏は顧問として次第に会社の経営にまで深入りするようになる。
だが、当時専務だったM氏が、上場当初株価が低迷していたことから、その打開策を証券会社外務員に相談したところ、騙され株と資金を取られてしまう。
そして、仕手筋に株を買い占められ、それを買い戻すために、会社は様々な工作をする。
そこでは、細野氏は、全く株価操縦も、虚偽記載もしていなかったのだが、事件で容疑者とされた人間の内、唯一有罪を認めなかったので、長期に拘留されてしまう。

そして、興味深いのは、最初に自白させられ、虚偽証言をしてしまうN元常務である。
彼は、キャッツの上場に際し、取引銀行だった富士銀行から入社するが、東大経済学部卒の学歴とのことで、成績、能力もよく、みなさすがと思っていた。
だが、数ヵ月後それは全くの嘘だったことがばれ、その結果有価証券報告書の取締役の経歴・学歴欄を全員削除することになる。
この彼の学歴詐称を検察は追求し、その弱みに付け込んで、虚偽の証言を作り上げ、他の被告にも、彼の自白に沿って自白をさせる。
この辺は、松川事件や八海事件等でも、微罪等の弱みを持っている気弱な容疑者を叩いて自白を作り上げ、そこから全体の証言、事件を作るのと同じである。

2審で、細野氏は、大友社長以下関係者の証言を供述調書にし、法廷でも証言させることに成功する。だが、判決は、すべて無視、控訴棄却だった。
日本の刑事裁判は、起訴されれば、99%有罪で、弁護士は最初から、勝つ、無罪を勝ち取る気などないが実態だそうだ。
どのように情状酌量し、罪を軽くしてもらうかが、弁護士の仕事であるらしい。
実に司法の世界は闇である。
以前、田中森一も、特捜と言うのは、国策捜査だと書いていたが、ここでも国策捜査だった。
当時、問題だった足利銀行事件等で、公認会計士が虚偽記載等に関わり社会的に指弾されていたので、検察は一罰百誡で、細野氏を逮捕、起訴、有罪にしたかったのだ。
この辺の構図は、今回の小沢一郎事件と大変よく似ていると思う。

読んでいて不思議に思うのは、こんなに泥沼に行くまで、なぜ細野氏は、この会社に付き合ったのか、と思うが、それは時として、大友氏が見せる「男気」だった。

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コメント

  1. ほんだ より:

    Unknown
    http://ow.ly/17q3B

    小沢事件について、細野氏の見解です。

  2. さすらい日乗 より:

    読めません
    ファイルが壊れていて、修復できないそうで、読めません。

  3. さすらい日乗 より:

    ビデオ・ニュースで見ました
    神保共生と宮台真司がやっているビデオ・ニュースに細野氏本人が出てきて説明していました。
    小沢一郎の陸山会の会計には全くおかしなところはなく、むしろ現行の政治資金規正法が複式簿記ではなく、制限列挙の単式簿記を採用しているのが問題で、それで変に見えるとのことです。

    小沢事件も、特捜検察の「汚職ありき」の先入感に基づく見込み捜査の間違いとのこと。
    要は、もう特捜検察など必要ないということでしょうね。