『春の戯れ』

昭和24年、東宝ストの後、山本嘉次郎が東宝を離れて、大泉スタジオ(現在の東映)で作った作品。
明治初期の品川に設定されているが、話はマルセル・パニョールの戯曲『マリウス』の翻案。
高峰秀子と宇野重吉が恋仲だが、宇野は外国に行くことに憧れていて、渡航する夜、高峰と寝た後、横浜から船で旅立ってしまう。
1年後、高峰には子が生まれる。
以前から高峰を好きだった豪商越後屋の三島雅夫は、すべてを承知して高峰と結婚してくれる。
その半年後、宇野が戻って来て、事情を初めて知る。
よくある話だが、カトリーヌ・ドヌーブ主演のミュージカル『シェルブールの雨傘』も、これを基にしているのだろう。
この名作も、最近ではあまり人気がなく、先日見たという私の娘は「退屈で寝てしまった」と言う。

高峰秀子の本には、監督の山本嘉次郎は、高峰と宇野に新派調の大芝居を要求した、と書かれている。
確かに、舞台劇のような二人だけのシーンが何度も出てくる。
解説の山根貞夫によれば、この映画は、ほとんど大泉スタジオとオープンセットで作ったとのこと。
品川宿と港を再現した松山宗のセットがよくできている。
音楽は早坂文雄だが、録音状態が悪くてよく聞こえない。
気が触れた女として一の宮あつ子が出て来て、器用に踊り笑わせてくれる。
一の宮は、この作品の製作者青柳信雄の妻である。

だが、この映画で最大の疑問と言うか、意味は、高峰、宇野のすべてを許す豪商三島雅夫である。
この作品は、東宝争議の終了の直後に作られたのだが、この三島雅夫の寛大さは、山本嘉次郎が小林一三以下の東宝の経営者に希望したかったものではないか、のように私には見えた。
考えすぎだろうか。
横浜市中央図書館AVコーナー

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