『腰抜け二刀流』

1950年、森繁久弥の初主演映画。
映画には、3年前の1947年に、衣笠貞之助監督の『女優』に出ているが、その後東宝はストライキで、映画製作を中断したので、森繁も東宝劇団やムーラン・ルージュで芝居をやっていて、東宝の映画復帰作なのである。
この頃は、ストライキの後遺症で、東宝作品は各製作者の独立採算性になっていたので、会社のタイトルがなく、いきなり題名から始まる。配給は新東宝。

話は、ニセ宮本武蔵の森繁が、居酒屋の女轟夕起子と、殿様のご落胤を連れて逃げる田中春男と旅する道中ものである。
他に、岸井明、香川京子、清川荘子らも出ていて、一応A級の作品で、脚本は三村伸太郎、監督は並木鏡太郎、音楽は鈴木静一。

森繁のニセ武蔵の居あい抜きなど、笑えないギャグが多いが、森繁の芸はすごい。
そして、よく見ていると森繁の芸は、古川ロッパに大変似ていることが分かる。
もともと、彼は戦前は東宝にいて、ロッパ一座にいたこともあるのだから当然で、しかもこの二人はよく似ている。
演劇、映画、音楽に通じ、インテリで、共に早稲田大学である。
だが、戦後古川ロッパは、森繁を大変嫌っていた。むしろ軽蔑していたと言うべきだろうか。
森繁の笑いが「卑劣な人間を演じてのものだ」と言うのだから、貴族役者のロッパに相応しい評価だが、的を得ている。
そして、この映画で、森繁はニセ武蔵を演じているが、これはまさに戦後の日本人そのものの姿である。
品がなく卑劣で、小心で悪知恵だけが働く、ロッパが嫌った森繁久弥は、戦後の日本人そのものの姿だったのである。

逆に古川ロッパが、戦後の芸能界に次第に受け入れられなくなっのも、まさに当然のことだったわけである。
日本映画専門チャンネル

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