ここにもオリザ病が蔓延している

大学時代の後輩で、映像作家の大高正大が参加した、おかしな監督映画祭「オカシネマ・コロッセオ」を西新宿に見に行く。
6本の短編映画が上映された。
大高の作品『女が女であること』は、諜報機関の男が、女に助けられて戦うと言うもの。
前作『待ち伏せ』と同様、強い女と弱い男の話で、その関係は内容は違うが、ルネ・クレマンの傑作『狼は天使の匂い』の雰囲気によく似ていた。
上映後に大高に聞くと、彼は『狼は天使の匂い』を見ていないとのことだったが。

この映画祭は、来た観客の投票によって作品賞等を決めるシステムである。
そして、驚くことに、それには、私が見て一番つまらなかった愚作TSEUDAYGIRL』が選ばれた。
勿論、観客の投票なので、友人、関係者の動員の性もあるだろうが、あのようにつまらない作品が、若者に支持されたのは、ここにもオリザ病が蔓延していることを示している。

オリザ病とは、言うまでもなく、劇作家平田オリザが始めた芝居のことであり、今はさらに進化し、岡田利規のサル芝居「岡田病」になっている。
それは、「超リアル芝居」といわれるように、ドラマ性はなく、日常的な演技によって平板な芝居が展開される。
今泉力哉監督の『TSUESDAYGIEL』も、二組の男女の結婚をめぐる話で、同棲から正式に結婚届を出そうとしていた方は、男が昔の女と会い、ついセックスしたために別れ、会社をリストラされたので結婚をためらっていた組は、男がリストラを女に打ち明けて正式に結婚することになる、というだけのはなしである。
たったそれだけである。しかも、出てくる役者がどれも素人で、魅力が全くない。主人公の男が髯を生やし、ピーター・マックス(古いね)のような風貌なことも非常に不愉快だった。

だが、こういうつまらない劇が、若者の映画、そして演劇で蔓延しているのには確実な理由があると思う。

一つは、本物のドラマを見たり、読んだりしていないことで、これはテレビが三流芸人のトークで占領されているのと同じである。
ファーストフードしか食べて来なかった人間には、本物の味が分からないのと同様である。
さらに考えれば、それだけ日本が豊かなになり、若者が文化や芸術に、「飢えていない」こともある。

江戸時代は、さておき、明治以降の日本は、「富国強兵策」で、芸術文化は長く置き去りにされてきた。
そこで、芸術は、なかなか手に入らない貴重品になった。
だから、クラシックから新劇に至るまで、芸術作品は大変な貴重品になってきた。
特に戦後は、国民は常に文化芸術にアクセスするための欲求不満状態にあった。
だから、誰もが争って、映画館や劇場、美術館等に殺到した。

だが、1960年代のテレビの圧倒的な普及と、1990年代以降の全国での文化ホールの建設による文化芸術事業の増大によって、今や国民はきわめて容易に文化芸術にアクセスでるようになった。
そこで、若者は、あふれる作品の前で、云わば「飽食している」と言うのが現在の状況であるだろう。
だから言うべきことは一言、「表現する必要のない奴は、表現するな」と言うことである。

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コメント

  1. Unknown より:

    Unknown
    はじめまして。今泉力哉です。平田オリザさんの芝居はまったく見たことはないのですが、たしかに近年の映画における(特に自主映画におけると言った方がよいでしょうか)なんにもない話と自然な芝居(というより芝居以前)のものには自分も時折、不快感を抱きます。自分の作品もそういった作品の1つと捉えられてしまっていたとしたら、悲しいですが、実力不足は確かですし、さらに言えば、編集途中というか、完全版はどうしても30分には収まりませんでした。
    動員によって選ばれた賞についてですが、僕自身は20人程度の知人しか来ていなかったらしいです。なので、他作品の関係者様、ひいては一般のお客様に評価されたことは嬉しく思います。ただ、まったくもって満足などしていません。そして、本当のドラマが撮れるように精進していきます。僕はジョンカサヴェテスの映画が好きです。そこにいる人間が、本当に生きているような。そういったものをつくりたいです。だから、映画の中でしか言わないようなセリフは、絶対に言わせたくない。出来事も、こうすれば「映画っぽい」事件などは、扱いたくもないのです。銃が出てきたりする話は自分には作れません。現実世界で、銃を触ったことも見たこともないのですから。人間にしか興味がないのです。カサヴェテスのようなドラマをつくれるように精進していきたいと思います。また、愚作かもしれませんが、次回作以降もご覧いただき、ご意見いただければ幸いです。コメントありがとうございました。今泉力哉

  2. 今泉力哉 より:

    Unknown
    指田文夫さま

    「表現する必要のない奴は、表現するな」とのことでしたが、表現する必要がなければ、表現はしていません。あんなに大変なことを、多くの人を巻き込んで、する必要のないことはしていないです。そこだけはご理解くださいませ。すみません。すみません。今泉力哉

  3. 今泉力哉 より:

    Unknown
    また、役者さんは芝居だけで食べている方もいます。素人ではないです。すみません。何をもって素人というのでしょうか。悲しいです。自分は言われてもいいのですが、役者さんは素人ではないです。すべて自分の演出の至らなさでしかありません。

    今泉