「隣町で朝鮮人とただいま交戦中、以上報告終わり！」
なんて、東京の町のあちこちでやっていましたよ。
「本当に、朝鮮人が東京中で暴動を起こしている」という噂が流れていたんです。
どの番組か忘れたが、１９６０年代のテレビ番組での、徳川夢声の体験談である。
それは、1923年9月1日の関東大震災のときのことであった。
勿論、「交戦中」ということはなかったが、未曾有の大災害、しかもテレビも何もなく、新聞も発行されない状況で、流言飛語は被災地を駆け巡り、また意図的にデマを流した者もいたようだ。
地震直後の東京や横浜で、「朝鮮人が暴動を起こし、また井戸に毒を入れた」との噂が流れ、それに対し、日本人自警団が暴行を加え、中には死傷者も出た。
劇団俳優座の指導者で演出家千田是也は、このとき千駄ヶ谷で自警団に詰問された。
彼はドイツ留学から帰国したばかりで、またしゃべり方がもともと流暢ではなかっため、「お前は朝鮮人だろう」と疑われ、袋だたきになりそうになった。
最後に、「皇祖皇祖、国をはじむること・・・」と神武以来の天皇の名を暗唱して解放してもらったそうだ。
そこで、「千駄ヶ谷の朝鮮人、千田コレヤ」との芸名にしたことは有名である。
彼の本名は、舞台美術の伊藤喜朔、ダンサー伊藤道郎らと兄弟の伊藤国男である。
実は、私の父も、大田区池上にいたが、「川崎から朝鮮人が攻めてくる！」と聞き、町内会の人と一緒に日本刀等で集団武装し、多摩川大橋まで行ったそうだ。
そして、おそるおそる多摩川の土手から頭を出し対岸の川崎側を見たが、何もなかった。
当然である、誰も攻めて来てはいなかったのだから。
当時、私の父は公立小学校の教員だったが、簡単にこんなデマに乗せられるような庶民の一人に過ぎなかった。
今、問題の尖閣諸島での衝突事件で、「本当は海上保安庁の職員３人が殉職しているのだ」というデマが、ネット上で本当のように流されている。
発信元は、いつもの石原慎太郎であるらしい。
そして、「これを民主党政権が隠蔽しているのは、今横浜で行われている「APEC会議」期間内に、問題を起こしたくないからだ」そうだが、そんなに「APEC」って、日本政府の威信が掛かるような大イベントなのだろうか。
もし一人でも死傷者が出ていたとすれば、あの中国人船長の能天気なVサインはなんだろうか。
いくら中国人でも、死傷者が出た事件の直後できる表情とは思えない。
第一、本当に死傷者が出たとするならば、現場の海上の捜索や船上の証拠品を確保していないのは、どうしたわけなのだろうか。それすらも、隠蔽されていると言うのだろうか。
こうなると、もう映画『カプリコン１』の世界であり、作り話としては面白いが、到底信じられないことである。
90年前の関東大震災から、日本人は少しも変わっていないのだろうか、外国人に対する排外主義と言う点では。
それは、今の日本人の中国への恐怖心と、どこかにまだある蔑視意識の、裏返しの結果なのだろうか。