『野がも』

没後100年の「国際イプセン演劇祭」で、ドイツのベルリン座の『野がも』が東京で上演された。
最近、池袋にできた、「あうるすぽっと」(豊島区舞台芸術交流センター)という劇場で、有楽町線の東池袋駅のすぐ近くにある。

恐らく普通に上演すれば3時間くらいは掛かるだろう戯曲を約1時間40分で上演する。
また、舞台は大きな円形の開帳場(斜面舞台)のみで、台詞はわざと棒読み調と、大変に抽象的だった。
結論としては、やや分かりにくいものだったが、さすがに役者は大変に上手い。

明治、大正、そして昭和の戦前はともかく、やはりイプセンは、われわれ戦後世代には、なじみの薄い劇作家になっている。だから、この作品の抽象度がよく測定できないのである。
果たして、この上演方式が、どれだけ本来のリアリズムからいくら離れているのか、よく分からないのである。

劇は、一人の強欲な企業家によって、森林の不法伐採の罪を着せられて不幸にされた男、その息子、その娘の少女の話である。
実はその娘は、企業家が、家の家政婦に作った子であることが最後に明かされる。
社長は、家政婦が妊娠したので、彼女を若い男に押し付けて結婚させたのだ。
その悪行を社長の息子で、男の親友が暴露する。
まるで「昼メロ」みたいだと言えばそれまでだが、むしろ日本の多くのメロドラマの方が、イプセンが作る上げた家庭悲劇を借用しているのである。
多分、イプセンが近代劇の開祖の一人とされるのは、近代市民社会の平凡な家庭の劇を、古典劇のように、ある種の英雄的な悲劇として作り上げたことだと思う。

私は、日本で一番「国際交流」が遅れているのが演劇の分野と確信しているので、海外からの演劇の公演は、努めて見るようにしている。
その結果、ドイツの現代演劇の水準は分かった。特別に日本より遥かに上でもなければ、下でもなかった。
「日本一は世界一」であり、「日本で最低は世界でも通用しない」ということである。
世界演劇の現状の一端を知り、一応満足して横浜に帰った。
池袋あうるすぽっと 

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