『女賭博師』の企画者・伊藤武郎

今、NH・KBSで「山本薩夫生誕百年」で山本薩夫作品が放映されているが、多くの企画が伊藤武郎である。二人は、東宝ストのとき、一緒に辞め独立プロを始めたのだから当然だが。
そして、伊藤武郎は、江波杏子主演の『女賭博師』シリーズの第一作『女の賭場』の企画者でもあり、これはどういう経緯なのか、前から大変不思議に思っていた。
それが、作家青山光二の本に書いてあった。

1966年の秋、突然永田雅一大映社長が、プロデューサー会議でほえた。
「今朝、夢の中で弘法大師のお告げがあり、今年12月に女の賭博師の映画を作ると当る!」
さらに、「この作品は伊藤、お前がやれ!」とラッパを吹いた。

そこで、戦時中に東宝で知人だった青山光二のところに来た。
青山は賭博の小説を書いたことがあったからで、伊藤らの映画人はヤクザの賭博など誰も知らなかったからである。
青山は、シナリオの直井欽哉、服部佳に原作者としていろいろと教え、二人は旅館に篭って急遽シナリオを書いた。
脚本のできたところから、ベテラン監督の田中重雄が撮影して行った。
そして、スタジオは異色作の製作に熱気に溢れ、田中はそんな中で淡々と撮影して行ったそうだ。こういうとき、スタッフの熱気を抑える操縦術が、むしろ作品の成功につながることをサイレント時代からの大ベテランの田中重雄は熟知していたのだ。

だが、さすがに最後は田中重雄も乗ってきて、「用意、スタート」の代わりに、
「入ります、勝負!」と言うようになったそうだ。
そして、これが大映末期の大ヒットシリーズになったのは、みな知るところであろう。

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