『人間の条件』

五味川純平の大ベストセラー小説の映画化で、多分2回見ているが、仲代達矢特集で1・2部が放映されたので、また見てみる。
主人公・梶の立場、原作者の五味川氏もそうだったと思うが、非共産党ヒューマニズムをどこまで貫けるかである。

満州の鉱山会社の調査部にいた仲代達矢の梶は、「特別徴兵免除」と引き換えに、奥地の鉱山に赴任し、中国人労働者の労務管理に当る。
そこは、奴隷的労働の場で、さらに捕虜を「特殊工人」として働かせることになる。明らかなジュネーブ条約違反である。こうしたことをやっていた日本軍に、戦後のソ連のシベリア抑留を非難する権利はないことになるが、これは事実だったのだろうか。
現在見ると、「なんでこんなに中国人の味方になるの」と、尖閣問題で激怒するネット右派は怒るに違いない。
だが、この1950年代末は、日本社会全体が、反戦平和は勿論、中国、朝鮮に対し過去の行為を詫びる気持ちがあった。
仲代達矢、小沢栄太郎らの左翼的新劇人のみならず、有馬稲子、佐田啓二、淡島千景、山村聡らの大スターも総出演が、その証拠である。
優秀映画鑑賞会特選は勿論、なにしろ文部省選定なのだから、当時日本人全体が懺悔していたのであり、それはある意味当然のことだった。
今、それを忘れているのは、やはり戦後60年以上もたち、戦争を本当に経験した世代がいなくなったからである。
戦争を戦場では体験しなかった石原慎太郎のように、敗戦直後の屈辱的な記憶のみで、反米愛国右翼になってしまうのだ。

今見ると撮影の宮島義勇の画面がすごい。コントラストの明確な力強い画面の中を役者がダイナミックに動く。
ロケーションは、北海道の他、秋田の小坂鉱山等でやったそうだが、鉱山の実写のスケールの大きさはセットでは再現できないものである。
脚本は、松山善三で、メロドラマ的な流れの中で、次々と山場を作って引っ張って行くのは、さすがに上手い。
メロドラマで重要なのは、いかに悪役が憎々しいかだが、ここでは小沢栄太郎、安部徹、三井弘治らが、本当に殺してやりたいほどの敵役を演じる。

今週末には、3・4部も放映されるが、そこでは南道郎と佐藤慶の二大悪役が心行くまで仲代を痛めつけるはずで、これも大変楽しみ。
日本映画専門チャンネル

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