『悪人』

吉田修一の大変素晴らしかった小説の映画化『悪人』をやっと見ることができた。
横浜黄金町のシネマ・ジャック。
期待どおりのできで、大変素晴らしい。

脚本は、吉田自身と監督の李相日、主演は妻夫木聡と深津絵里。
深津と言うと、以前ヤクルト・ジョアの宣伝で、幼稚園の保母を演じていて、いかにもぴったりだったので、その程度の女優と思っていた。
だが、先日のサイモン・マクバニー演出の『春琴』と同様に、ここでは段違いの演技を見せている。

話は、生保会社員の満島ひかりが、出会い系サイトで知り合った妻夫木とのデートを約束していたが、約束の場所で、彼女が憧れていた金持ちの大学生岡田将生に偶然会い、彼の車に乗り込んでしまう。

映画はそこで切れて、妻夫木の土木作業員としての仕事や祖母樹木希林の日常が淡々と描かれる。また、満島の父親柄本明の理髪店の様子も描かれる。
長崎と福岡の間の国道の崖下で、満島の死体が発見され、犯人は最後に一緒だった岡田将生とされるが、彼は逃亡して不明。

舞台は九州で、唯一繁栄の福岡市に比べて、長崎、佐賀の地方都市の寂れ方がすごい。
そこでは、旧来の商店はひどく衰微している。
ロード・サイドの紳士服店の店員深津絵里は、恋人がいる妹に対し誰も相手がいなくて、出会い系サイトで知り合った妻夫木と佐賀駅で会う。思ったより好感の妻夫木に、深津は誘われるままにホテルに行く。
この妻夫木がホテルに誘う車内のシーンの会話もリアルである。
妻夫木は、満島によれば、「肉体労働者で、話もつまらないが、セックスだけは上手い」男
ホテルのベットで、深津は妻夫木にすぐに裏返されてバックからセックスされる。
原作では、ここの描写も良かったが、映画ではテレビ放映こともあるのか、簡単にしか描かれていないのは残念。

深津の店に妻夫木が来て、二人は車で逃亡する。
深津が、妻夫木とセックスしてから次第に生き生きとし、きれいになって行くのが恐ろしい。
行き先は、長崎県の海岸縁にある灯台。
そこは、幼い妻夫木が、母親余紀美子に置きされにされた場所。

最後、妻夫木は、大捜査陣によって逮捕される。

事件後、道路脇に花を手向ける柄本を見て深津は呟く。
「人を殺したのだから悪い人なのです」

誰が、人を殺した悪人なのか。
短絡的に言えば、バブル崩壊以後、日本の経済社会、特に地方都市を破壊した「小泉・竹中路線」である。
今や、、特に下層社会はどこにも希望はなく、若者はセックス、ショッピング、グルメにしか興味を持たず、人間性が崩壊している様が実によく描かれている。原作では、満島の会社の女の子同士の差異性が細かく描かれていたが、映画ではないのは仕方ないだろう。
21世紀初頭の日本のリアルな姿を描いた作品としてきっと後世に残るに違いない。
黄金町シネマ・ジャック
映画の後、古本屋等を見ながら家まで歩いて戻る。

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コメント

  1. 李相日監督 「悪人」

    この間、読み終わったばかりの吉田修一「悪人」の映画化作品
    今日(9月15日)観て来ましたv(^-^)v
    あらすじ、ストーリーは脚本も原作者である吉田氏が書いてるので、こちらのレビューでは省きます。
    (原作「悪人」のレビューはこちら⇒http://blog.goo.ne.j…