『名もなく貧しく美しく』

題名だけで見るのを敬遠してきたが、見るとなかなか面白い。
昭和20年の空襲で焼け出された高峰秀子は、戦後夫の高橋昌也と田舎へ買出しに行っていたが、高橋は発疹チフスで急死してしまう。
すると義父の松本染升らから、高峰は離縁されてしまう。
彼女は聾唖者だったからである。
母親の原泉と実家に戻るが、大檀家だった家は焼け出され、バラック暮らしで、姉の草笛光子は米軍のオンリーに、弟の沼田曜一は軍隊時代の仲間とインチキ商売をしようとしている。
高峰は、聾学校の同窓会で同じ聾唖者の小林桂樹と会い、翌日上野で会い、プロポーズされる。
「私なんか」と辞退した高峰だが、電車の改札で駅員南道郎に小林が誤解されて暴行されたとき、
「私たちは一人では生きて行けない、助け合わなければならないのです」と思い小林と結婚する。

一人目の子供は、夫婦が就寝中に這い出して玄関から落ちて死んでしまうが、二人目の子は無事育つ。
この子は、当時良く出ていた子役島津雅彦君である。彼は、大きくなるにつれて高峰が聾唖であることを恥じ、嫌うが、それも次第に直る。
最後、息子が小学5年生になり、来年は総代に選ばれるという日、大空襲のとき、助けた少年が立派な大人になったと高峰の家にお礼に来る。
若き加山雄三である。
自宅に戻り急ぐとき、車の警笛が聞こえず高峰はトラックに撥ねられて死んでしまう。

主役の二人が聾唖者でほとんど台詞を言わない映画は、世界中にもないだろう。
高峰と小林は実に上手いが、脇の原泉、草笛光子、沼田らも時代を象徴させるように描かれている。
草笛は、銀座のバーで成功しているが、実は中国人の愛人になり、沼田はヤクザに入り、家族にたかって生きている。
その中で、「貧しくとも清く正しく生きることが尊いのだ」というメッセージである。
つい最近まで、これは日本人全体の意識だった。
だが、今や「勝てば官軍、自分だけは勝組になろう」という意識が強くなっている。
その理由は、言うまでもなく「小泉・竹中路線」だが、民主党の中にも前原のように同調する者がいるのは、実に嘆かわしいことである。
音楽は林光、戦後直後の東京の下層社会の町並みを再現した中古智の美術がすごい。
銀座シネパトス 小林桂樹特集

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