『決戦下のジャズ』

映画『娼婦しの』を見た後、神保町で時間をつぶして、同じく神保町のらくごカフェで行われた「ぐらもくらぶ」のイベント『決戦下のジャズ』に行く。会場は古書センター5階で、前は喫茶店があったところだと思う。改装され落語の高座をするイベント会場になっていた。
今回は、昭和12年の支那事変(日中戦争)から20年の敗戦に至るまでの時代は、一般的にはジャズを代表とする欧米文化が抑圧され、戦時体制下で戦意高揚が謳歌されたが、実はその中でも多くのジャズ、ポピュラーソングは人気を得ていて、盛んに演奏され、レコードも出ていた。それをSP原盤で聞く珍しいイベントである。

二部に分かれていて、1部は「ジャズ軍国調」、2部は「ワルノリから破滅へ」となっていて、それぞれ9曲と10曲のSPが掛けられた。
SPレコードなど、見たこともない方も多いと思う。だが、SPは実はダイナミック・レンジが広く、音の生々しさでは、CDより遥かに良いのである。

第一部は、昭和16年12月8日の太平洋戦争以前で、戦争は中国とのもので、そこでの中国人、中国兵に対する歌詞の描写がすごい。
彼らは、臆病な弱虫で、兵器の扱いが下手で、負け戦になるとすぐに逃げる。対して日本兵は、勇敢でやさしく、思いやりと知恵がある。
この中国人感は、尖閣列島問題での昨年の日本人の感情とほとんど同じであるのには驚く。
また、宝塚のレコードで『太平洋行進曲 水産日本』があり、南方にことかと思っていたら、北洋の漁場と水産資源のことだった。対ソ連感情は今も昔も変わりないのだ。

第二部は、太平洋戦争後で、次第に規制が厳しくなり、「7・7禁止令」による欧米音楽の禁止、物品税の値上げによる昭和15年までの15%から最後は、120%までの改悪の中でも、ジャズのレコードは、以前に出したものが新規吹き込みは禁止なので、再発されていた。
ラストナンバーは、昭和13年の灰田勝彦の『君を慕いて』が、19年に再発売されたものが掛けられた。
総じて言えば、この日のゲスト瀬川昌久先生と、今回『ニッポン・スイングタイム』を出された毛利眞人さんが言われるように、戦前、戦中の日本のジャズは大変高いレベルに達していたのである。
ただ、私はそれは楽器のことで、歌手のボーカルに関しては、代表的音痴歌手川畑文子に象徴されるように必ずしも上手くはなかったと思うのだが。

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