『九ちゃん音頭』

『上を向いて歩こう』50周年特集の坂本九主演1962年の松竹映画、脚本は山田洋次先生で、監督は市村泰一である。

伊豆七島の神津島から来た青年坂本が、東京の八百屋で働き、商店街の若者、ジェリー藤尾、山下洵一郎、さらにダニー飯田とパラダイスキングらの面々と、桑野みゆき、十朱幸代らと繰り広げる青春映画である。
彼らは、全員が田舎から出てきた勤労青少年で、政治的になれば民青になり、この当時のレベルでは、若い根っこの会に組織された連中と言うべきだろう。
映画だから仕方がないが、人気者のスターが、無名の貧乏人を演じることの違和感が大いにある。
これは普通人を普通に演じることが一番難しいからであり、それは小津安二郎や成瀬巳喜男の映画を見た人なら良く分かるに違いない。

ここでも、山田洋次は、貧乏人と金持ちとの対立、さらに都市と地方の差異性をドラマの核心にしている。
それは正しいのか。
それは、渥美清という天才的な役者と山田が出会うまでは、解決されないものだった。
渥美清では、それらは「よお労働者諸君!」と言うように、渥美の天才的な笑いによってドラマとして初めて昇華された。

坂本九は、かつてエノケン、榎本健一が、本気で自分の二代目、跡継ぎにしようと思ったように、動きと演技の良さと天性の愛嬌を見せる。
確かに、惜しい役者だった。これだけ愛嬌のある役者も今はいない。
生きていれば、渥美清の跡継ぎもできたかもしれない。

坂本九をはじめ、ジェリー藤尾らマナセ・プロダクションの蓮中が演じた、1960年代に地方から東京に出てきて働き始めた若者たちは、1980年代には自分の家を持つまでに上昇し、それは空前の土地ブーム、バブルを作り出した。
そして、その結果は『デフレの正体』の藻谷浩介が言うように、彼らが退職して日本の消費は激減し、今日のデフレと不景気を作り出し、今や膨大な高齢者層となって首都圏に存在しているのである。
衛星劇場

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