鈴木清順と斉藤武市

この二人の監督は、1960年代に日活で娯楽作品を多数作ったが、共に松竹大船の助監督から日活に移籍してきた人である。
鈴木は、言うまでもなく異色娯楽作が多く、斉藤は小林旭の『渡り鳥シリーズ』等のきわめてオーソドックスな娯楽映画が多いが、斉藤が小津安二郎の助監督だったと言うのも不思議だが、確かに斉藤作品はきわめてきちんとしている。
彼は、『渡り鳥シリーズ』が終わった1960年代中頃は、吉永小百合の純愛ものや青春ものを撮っていて、『君が青春のとき』も、その1本。
テレビ会社に就職した吉永が、原宿族の実態をレポートしようとするもの。実際に、赤坂のTBSが使われているようだ。
山田信夫のほか倉本聡、加藤隆之介の3人が名を連ねているが、いつまで経っても方向性が見えない凡作脚本。
吉永の相手役の山本圭に不良性がないのが致命的で、唯一斉藤チヤ子が出てくるのが、この映画の価値だと思う。

鈴木清順の『百万弗を叩き出せ』は、和田浩冶主演のボクシング映画、さすがに鈴木清順だった。
大森駅や川崎の扇島駅付近をロケーションしていて、その映像も貴重。
八丈島から出てきた和田浩冶と野呂圭介の二人の少年の対照的な人生をダイナミックに描く。
出てきた二人が、まず大森のヤクザ連中の屯するボクシング・ジムに来て、いきなり腰を振る女を見て逃げる和田浩冶とそれに吸い寄せられる野呂圭介。
和田は、そこを逃れて、川崎の埋立地のボロのボクシング・ジムをやっている金子信夫のところに入門する。
若い美人妻(映画の中で役者が言う)が渡辺美佐子で、確かに50年前はきれいで色っぽい。
そこには、山田吾一らもいて、貧乏だが、金子は熱心に指導している。
唯一のホープが平田大三郎だったが、安部徹の大手ジムに引き抜かれ、最後はタイトルマッチを和田と争うことになる。
金子信夫が面白く、顔面神経痛で絶えず片目を細めている。
タイトル・マッチで、和田がTKOされそうになると、セコンドからタオルを奪ってしまい、ギブ・アップを阻止してしまい、最後は和田は、平田をKOする。

このシーンでは、テレビ中継の解説で平沢雪村と矢尾板貞雄、志生野温夫、レフリーで林国冶が出ている。
平沢雪村は、当時有名なボクシング解説者で、ボクシング雑誌の主催者でもあった。
彼は、頭山満の流れを組む国粋主義的人物で、雑誌の巻頭には、頭山満の書が掲げてあった。
要は、ボクシングで世界に勝ち、飛躍しようとするもである。

鈴木清順は、その後大きく有名になるが、この1961年の時点からかなり変わった撮り方、異色の人物描写をする監督だったわけだ。
一言で言えば、戦中派のニヒリズムとある種楽天的な庶民的人間賛歌と言うべきだろう。
阿佐ヶ谷ラピュタ

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