『紅の流れ星』のクールな世界

日本映画専門チャンネルで、外務省機密漏洩事件を描いた『密約』を見て、不満が残ったので、舛田利雄の『紅の流れ星』を見る。
やはりすごい。
『密約』は、事件を普通に追っただけでどうということもなく、ただ吉行和子が演じる女主人公の事務官が、北村和夫の新聞記者に一方的に騙されたのではなく、過去には自分から誘惑して別の男と関係もあったことを示唆したことが唯一の意味ある視点だろう。
監督の千野皓司は、日活で東京ぼん太の面白くない、泥臭い喜劇を作っていた。
東京ぼん太の喜劇より、この作品の方が意味があるわけではない。
原作者の沢地久江を思わす女性ジャーナリストで大空真弓が出ていた。大空は、両親が沖縄の出身で、その性か浦山桐郎の沖縄映画『太陽の子』にも出ている。

さて、舛田の『紅の流れ星』は、よく知られているように舛田の監督作品、石原裕次郎主演の『赤い波止場』のリメークであり、神戸を舞台にしている。
だが、日活後期で、予算が不足していたのだろう、本当に神戸に行ったと思われるのは、主演の渡哲也、浅丘ルリ子、松尾嘉代ら数人であり、杉良太郎以下のチンピラは、横浜ロケで済ましている。
ノートを見ると、この映画は1967年10月に新宿国際で、鍛冶昇の『東京ナイト』、江崎実生の『マカオの竜』との3本立てで見ている。

『紅の流れ星』で、ともかく驚いたのが、木村威夫の美術のセンスと、全体に漂うクールな感じだった。
ここでも、当時流行していたジェンカが出てくるが、ディスコでのアクション・シーンが終わった後に、渡がその場を鎮めるように踊りだすと言うもので、実に自然でカッコ良かった。先日見た、『君が青春のとき』のラスト・シーンでの芸のなさとは大違いだった。
その音楽もブラスが強調されていて、歌声的には聞こえない。
台詞が大変洒落ていて、随分遊んでいる感じだったが、今見ても相当にキザ。

浅丘の婚約者で、実は暴力団の密輸品の宝石を手を出していたインチキ男が山田真二、杉良太郎の恋人に奥村チヨと配役も斬新だった。
中盤での渡哲也を、東京から殺しに来た宍戸錠と渡との格闘シーンもさすがに迫力がある。
宍戸もまだ若かったのだ、今では到底できないアクションである。

鏑木創の音楽が実にクールで映像にぴったりしている。
冒頭で、今はなき横浜の新港埠頭を走っていた臨港線や屋根の付いた荷捌き場が出てくるのが、今では貴重な映像である。

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