『美貌の都』

阿佐ヶ谷ラピュタの今月は、宝塚映画特集。
1950年代の日本映画全盛時代に設立され、東京映画と並び東宝系の独立プロとして多様な作品を作り出していたが、今はすでにスタジオそのものがないらしい。

宝田明のヒット曲「すったもんだと言ったとて 嫌いは嫌い 好きは好き」の『美貌の都』であり、司葉子と宝田明のメロドラマであるが、丁寧に作られていて感心した。
脚本は井手俊郎、監督松林宗恵、役者は主演の美男美女の二人の他に、小林圭樹、木村功と淡路恵子、司の母親で清川虹子、いつもは清純派が多いのに珍しくずべ公役の環三千代など。
司は、不良少女で、環と宝田を取り合う役と二役である。

大阪庄内の「二戸一長屋」に住む司葉子は、同じ自動車部品工場の職工の宝田と恋仲だったが、会社の御曹司木村功が工場に来て見染められてしまう。、
確かに零細工場の女工で司葉子がいたら、「掃き溜めに鶴」だろう。
お定まりのように、司は、工場を辞め、木村の斡旋で琵琶湖のホテルに勤め、宝田と別れてしまい、木村との間で妊娠してしまう。
子を下ろした後、木村の態度は急変し、さらには屋敷にいた女中の淡路恵子にも同様なことをしていた過去が暴かれる。
この辺の感じは、やはり大阪を舞台にした溝口健二の名作『浪花悲歌』を思わせる。

最後、司は木村と別れ、宝田ともう一度やり直すことになって終わる。
ここにあるのは、「貧乏人は貧乏人同士で一緒人なれ、金持ちとは所詮別だ」ということだろう。
と同時に、母親の清川虹子は、司が貧乏長屋に戻って来たときに言う。
「お前が、自分だけはいい目を見れば良いという考えが嫌だったんだよ」
これも1950年代の日本の庶民感情だった。
ホリエモンや村上何とかのように、自分一人だけ「金を儲けて何が悪いんですか」とは思わなかったのである。

いつもは、ただ可愛いいだけの役が多い、環三千代が、不良になった宝田と同棲するズベ公を演じているのが珍しい。
この人は、人形のように可愛く、声も明るく、テレビによく出ていて私はファンだった。
彼女はいつの間にか結婚引退し、若くして死んでしまったとのこと。
だが、小津安二郎の『秋刀魚の味』に、北龍二の新妻として出ているので、日本映画史に永遠に残るにちがいない。
幸運なことである。

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