『楽園の合唱』

1937年「東宝オンパレード」と名づけられたスターの紹介映画。
金持ちの父親が急死し、その遺言で女嫌いの後継藤井貢を結婚させるために、叔父丸山定夫の奔走を描くもの。
脚本八住利雄、監督大谷俊夫、音楽鈴木静一、撮影鈴木博という後の東宝を担うスタッフ。

花嫁探しの相棒が岸井明で、藤井が一目ぼれするのは椿澄枝、その彼女を狙う怪外国人が永田キング。
見合いの過程で東宝のほとんどスターが出てくるが、千葉早智子がやはり一番の美人である。
スターで出ていないのは、藤原釜足くらいだろう。

古川ロッパは、売れっ子の作家で、高峰秀子と料亭で一緒に出て、歌う。
中には、PCL撮影所での『蝶々夫人』の撮影風景もあり、監督は大日向伝、スクリプターが清川虹子、助監督嵯峨善兵らで、蝶々さんは入江たか子、ピンカートンは高田稔もある。
全体として、丸山定夫が喜劇役者としても上手いのにはあらためて感心した。
最後、藤井と椿の二人は、飛行機の上で、牧師エノケンの前で結婚する。

はじめ藤井貢が誰れだか分からず、江川宇礼雄に似ているが違うかなと思っていたら藤井貢だった。
私は、松竹のサイレント喜劇はほとんど見たことがないが、ここでも藤井貢はやたらに走っている。
藤井は、言うまでもなく松竹の「大学の若旦那」シリーズの主演者であり、この若旦那シリーズは、後の加山雄三の「若大将」シリーズのもととなった。

永田キングの手下以下の一味は、雰囲気としては、英国・インド的で、これは当時の反英国運動を反映しているはずだ。
英国=悪人と言う図式である。
東宝には、少し後だが、同じ反英国映画として、長谷川一夫主演の『進め独立旗』もある。

監督の大谷俊夫は、東宝の後に、満映に行き、そこでも喜劇を撮ったようだ。
戦後は、日本映画界に上手く戻れず不遇のまま終わったようで、その意味では、満映から日本映画界にきちんと復帰した内田吐夢はすごいと言うべきである。
衛星劇場 蔵出し映画館

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