『おどくみ』

公平に見て、今やはり継続して良い劇を作っているのは、新国立劇場である。
多分、劇作にかける時間を初めとする条件が良いのに違いなく、これは勿論良いことだ。
今回の松本剛作、宮田慶子演出の『おどくみ』も、最後「これで終わりなの?」という者足りなさはあるが、出来は悪くない。

話は、1980年代、横須賀にある惣菜屋・弁当屋の畑中商店で、作者松本剛の実家のことをヒントにしているらしい。
そこは、先代の樋田慶子と夫(寝たきりで舞台には出て来ない)でやっていた乾物屋を、長男小野武彦の妻高橋恵子が、総菜屋に代え、弁当の仕出もやって成功していた。
だが、その店の仕切りは、すべて高橋恵子と店員の根岸季江によるもので、夫の小野は、ほとんど何もしてい。
息子の大学の映画研究会の連中などが、8ミリ映画の準備をし、長女は医学系学部への進学準備をしている。
実は、その家族には、小野の弟の問題児の谷川昭治朗の次男もいて、別にコンビニをやっているが、営業不振で、母親樋田に金をねだっている始末。

ある日、店に宮内庁から、葉山の御用邸への弁当の仕出しの注文が入る。
葉山と横須賀は、非常に近く、実際に松本の店にも注文はあったのだそうだ。
だが、その日、インド旅行から戻って来た次男は、下痢を起こし、店は食中毒の懼れで大混乱になる。
食中毒騒ぎが収束した数日後、ついに高橋恵子は小野武彦に対し、積もりたまった不満を爆発させる。
だが、離婚には至らず、最後はハッピー・エンドで終わる。
まるで、テレビの嫁舅の対立劇で、今更新国立でやる必要があるのかと思うが、高橋恵子の美しさで、すべてを許せる。

さらに、この劇には、三つ良いところがあった。
一つは、横須賀を題材としたことは、極めて珍しい。映画でも今村昌平の『豚と軍艦』くらいしかない。
さらに、根岸季江の皇室ファンの女性を出したことで、これは草の根の天皇主義を表現するもので、多分日本の演劇史上初めてで、大変に面白かった。
もう一つは、学生仲間の一人に、政治に憧れ、卒業後松下政経塾に入ってしまう勘違い男を出したことである。
是非この次は、この勘違い男を中心に、その後の小泉・竹中時代の狂騒の続編を描いてほしいと思った。
新国立劇場

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする