渋谷川を逃げた映画

NHKが「ブラタモリ」のスペシアル版で、渋谷、特に渋谷の深い谷の地形を作った渋谷川を特集した。
この「ブラタモリ」は、幅広い調査と教養性、娯楽性を持ったNHKらしい番組だと思う。

新宿の天竜寺の池を水源とする渋谷川も、現在はほとんど暗渠化され、渋谷では、南口の東急線のホームの端辺りからしか河川が見えない。
そして、現在は下水道が普及したために水は流れておらず、雨がふらないと川にはならないとのこと。
勿論、これはつい最近のことで、1970年代までは、汚い流れがよく見えた。
そして、この渋谷川の中を逃げまわる映画があった。
1964年の、蔵原惟繕監督の『黒い太陽』である。

この映画は、1960年代の日本人のジャズへの憧れと誤解を集約したような作品で、今見るとその偏見が実に貴重である。
偶然、黒人兵チコ・ローランドと出会ったジャズ狂の川地民夫は、彼を自分の家に連れてくる。
その部屋には、モダン・ジャズ、それも黒人のジャズのLPばかりがある。
彼に言わせれば、黒人のジャズのみがジャズで、白人のジャズなどジャズではないのだそうだ。
ともかくこの誤解と偏見はすごい。
音楽は、黛敏郎で、結構よくできていて、彼は、学生時代から、バンドでジャズ・ピアノを弾いていたのだから当然なのだ。
なんと当時マックス・ローチと一緒だった女性歌手のアビー・リンカンが歌っている。
わざわざ彼らを日本に呼んで演奏、録音させたのだから、日活も随分金があったのだ。

最後、当然にも彼とチコ・ローランドは、互いを理解できず、チコは、警察に追われて死んでしまう。
未だに、日本でのジャズへの考え方は、この頃の川地民夫の誤解と大して変わっていないように私には思える。

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