『愛より愛へ』

戦前、松竹大船調を確立したという島津保次郎監督の有名な映画。
ただし、戦後に再編集されたものらしく、かなり短く、またタイトルに助監督等の名はあるが、監督の島津の名はないという大変奇妙なもの。

裕福な医者の家の一人息子の佐野周二は、小説を書いているらしく、家を出て女給の高杉早苗とアパートに二人で暮らしている。
佐野は、ある日、叔父の坂本武のところに就職の世話を頼みに行く。
坂本は、新聞社の河村粂吉を紹介するが、河村は、坂本から頼まれていて、女と別れ独身でなければ採用しないと言うと、佐野は怒って断る。
自分のために佐野を苦しめていると思う高杉だが、佐野はまったく気にせず、高杉との生活が一番大事と言う。
二人の間を、佐野の妹の高峰三枝子が往復し、仕切りと母親に高杉の良さを喧伝する。
だが、坂本は執拗に高杉に佐野と別れることを強要し、ついには高杉は納得してしまう。
最後、女を別れさせたと家に乗り込んでくる坂本に対して、父親の水島良太郎は、
なんと「好きなら仕方がないじゃないか」と二人の結婚を認める。
「俺は一体何のために奔走していたのだ」と呆れる坂本だが、すべては丸く収まってハッピー・エンドになる。

松竹大船映画特有のドラマ性に乏しい日常的な劇である。
佐野周二が、お坊ちゃんで一本気な男をよく演じている。
高杉早苗のモダンな女性も、当時で考えれば極めて西欧的である。
全体に欧米的なセンスが充満している。

途中で、佐野、高杉、高峰が映画を帝国劇場見に行くと、ベルリンオリンピックの記録映画『民族の祭典』が上映されている。
当時帝劇は、松竹の傘下にあった劇場だったのだ。
その後、東宝のものになり、戦後はミュージカルをやった後、洋画劇場になっていた。
衛星劇場

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