『「妖かしの民」と生まれて』 笠原和夫 講談社 1998年

『総長賭博』『いのち札』等のヤクザ映画の名作、『仁義なき戦い』シリーズの実録もの、さらに『大日本帝国』などの戦争大作の脚本を書いた笠原和夫氏の生い立ちからシナリオ・ライターになるまでの軌跡を書いたもの。
複雑で、有為転変の多い家族と出生も興味深いが、なんと言っても戦時中の海軍生活と戦後の銀座の外れにあった米軍人相手のホテルの話が圧倒的に面白い。

広島の大竹海兵団に入団した笠原氏によれば、帝国海軍は、「ドロボー集団だった」そうだ。
銃器から褌に至るまで、日々中隊からやたらにものがなくなり、そのため翌日の点検までに、他の隊に忍び込んで盗み返すのが日常で、これが日本軍得意の「夜襲や奇襲攻撃」の役にたっていたと言うのだから笑える。
多分、海軍のみならず陸軍も同様だったはずで、それは結局は日本軍の貧しさ、物の貧困と言うことになる。
物量が決定的に不足しているので、こうした盗みあいが起こり、さらにそれは他国では、食糧から女性に至るまでの「現地調達方式」になり、これは問題の従軍慰安婦にまでなるのである。

日本軍の最大の問題点は、「真空地帯」に象徴される内務班等での部下への暴力と非人間性で、これが他国民に適用されれば、「南京大虐殺」になったのであり、その規模はともかくとして、日本軍による暴力行為はあったと思うのが普通であろう。
なぜなら、自国民の部下へ暴力を振るった将兵が、他国民に対して非暴力で対したとは到底思えないからである。

また、笠原氏は、こうした海軍の暴力性は、どこの国でも実は海軍の起源が、海賊にあることも指摘している。
戦後の、俳優の大日向伝が隠れて経営していたと言う銀座の外れのホテルについては、また別に書く。

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