山本富士子について

山本富士子はかなり上手い女優だと思う。市川昆監督の『私は二歳』などを見れば極めて自然な演技もできる役者であることが分かる。『憂愁平野』でも森繁に十分対抗した演技をしている。むしろ、森繁の愛人になる新珠三千代が変な演技である。もっとも、この役はかなりおかしな役で、聖女のような観念的な女性らしく、新珠にふさわしい役とは到底思えない。当時、新珠は人気が高く、『人間の条件』や『女殺油地獄』などに主演しているが、私は岡本喜八の『江分利満氏の優雅な生活』での小林圭樹の奥さん役が一番いいと思っている。
山本富士子が日本映画の斜陽化の中で、五社協定によって出演が出来なくなったのは、大変ばかげたことである。彼女と大映の確執についても諸説あるが、演劇評論家千谷道夫さんの『幸四郎三国志』によれば、「彼女は悪くないが、そのマネージャーが良くない」とのことで、大映と喧嘩になったそうだ。
マネージャーとは佐野博氏で、この人は大島渚が『飼育』を撮った後で、山本富士子主演でスタンダールの『カストロの尼』の翻案を作る話があった関係で、『飼育』には製作協力になっている。
その後、彼は佐野芸術プロで『戦艦雪風』(監督山田達雄)という映画を作っている。『戦艦雪風』は、一部の戦争映画ファンでは大変評価されている作品である。

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コメント

  1. いじわるじじい より:

    雪風は駆逐艦です
    「雪風」は戦艦ではなく、駆逐艦です。

    山本富士子は、実は体育会系で(高校時代は水泳部だったはずだ)とても腕力が強く、舞台で共演した松本幸四郎(先代)によれば、彼女を抱き寄せたとき、本当に力を入れて押し返すので、幸四郎はとても疲れたのだそうだ。