『SPレコードに刻まれた戦前期の<語り>の文化』 渡辺 裕

国立国会図書館で行われた東大教授渡辺裕の講演会に行く。
内容は、予想したものを出るものではなかったが、高峰交楽会の『高峰琵琶三楽奏』と言うのが聞けたのが、収穫だった。

講演終了後に、制作年代を聞くと1929年とのお答えだった。
本当は、「これは琵琶歌劇なのでしょうか」とお聞きしたかったが、先生は琵琶歌劇をご存じないようなので、やめた。
その後、ある若者が漫談について質問したのだ。
渡辺先生は、講演の中で、弁士が、トーキー映画以降、レコードの「映画説明」に活躍することをさんざ説明していた。
だが、先生は、漫談が大辻司郎、牧野周一、徳川夢声、山野一郎など、サイレント時代の弁士がトーキーで失業し転業したことから生まれたことをよく知らないようで、的外れの答えだったからだ。
漫談の起源を知らないようでは、琵琶歌劇などご到底存知あるまい。
琵琶歌劇とは、琵琶に合せて少女が踊り、演じるもので、1920年代関西にあり、女優田中絹代がスターだった。

先生は、日本のレコードの歴史の中で、いかに語りの文化が大きな影響を持って来たかを力説された。
これもよく考えれば当然のことで、吉本隆明の説では、「劇的言語帯は、物語的言語帯」の上に成立する。
中世の説教以来、長い物語の歴史を持つ日本の芸能の中で、レコード音楽も劇的要素を取り入れれば、当然に物語、つまり語りを摂取するのである。

講演会は一応満足だったが、国会図書館の対応には、大変不満と言うか非常に驚いた。
横浜で仕事があり、予定の時間を過ぎていたので急いで、新橋からタクシーで行く。
本館正面、新館入口、本館受付、もう一度新館受付に行きやっと、西口通用口から入ることが分かる。
この間約40分、この講演会のことを知っていたのは、本館受付の若者のみ。
ただし、その彼も正しい順路を教えることがなかった。
さすがに国は、巨大な組織による官僚主義とあらためて感心した半日だった。

展示では、フィルモンレコードと言うのを初めて見た。
昭和5年頃に日本で開発されたもので、エンドレス・レコードだそうで、長時間録音、再生ができたらしい。
長唄が収録されているとのことだった。長唄は大抵面白くないものだが、いつか機会があれば、聞いてみることにする。

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