『怪優伝 三国連太郎・死ぬまで演じつづける』 佐野真一 講談社

佐野真一が、三国連太郎にインタビューしたもので、デビューから最近作まで、佐野の正直な感想が交えられているので、大変面白い。
それは、佐野が三国に「なぜ『釣りバカ日誌』のような映画に出るのか」と質問し、佐野の『釣りバカ』への不快感を示しているところなど。
佐野が、正直に個々の作品への批評性を出しているので、三国も正直に答えているとも言える。

三国の出自のことや女性とのことも興味深いが、一番驚いたのは、三国と有馬稲子が共演した、今井正の大傑作『夜の鼓』に触れたところである。
あの映画は、近松門左衛門の『堀川波の鼓』を原作にしているが、不義・密通した妻有馬を三国は、惨殺し、さらに相手の森雅之も殺害する。
この三国の女敵討ちへの執念にはどこか異常なものがある。
それについて、三国は、当時監督の今井正の奥さんが、生活苦からバーに働きに出ていて、そこで間違いを犯したというのである。
今井正の生前に、伝記を出す話があり、執筆されたが、前の奥さんの了解が得られず、ダメになったとある本で読んだことがある。
それは、多分このことに触れたものだったのか、と納得した。

今井正、木下惠介、渋谷実、内田吐夢、市川崑、山本薩夫、吉村公三郎、新藤兼人などの監督の比較も面白い。

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コメント

  1. なご壱 より:

    Unknown
    私も昨年 この本を読みましたが、なかなか読み応えがありました。「夜の鼓」では、釣りバカシリーズで夫婦を演じた奈良岡朋子が女中役で出演しています。
    「襤褸の旗」の田中正造役で、土を食べてしまったことには、びっくりしました。当時共演した西田敏行が目をまん丸にしていたとのエピソードも印象的でした。
    三國がうまいと思った女優に望月優子を挙げているのは、味わい深いものがありました。

  2. さすらい日乗 より:

    Unknown
    三国も佐野も、今井正の『夜の鼓』を傑作として上げていたのが印象的ですね。『夜の鼓』は、公開当時に中平康や増村保造には「下手くそ」と言われましたが、今日で見ればどちらが時代の検証に堪えているでしょうか、結果は明らかですね。