吉本隆明、死去

思想家の吉本隆明が死んだ、87歳。
どのような立場をとるにせよ、戦後の日本社会で最大の影響を与えた思想家であると評価せざるを得ないのは間違いないだろう。

私が、吉本を知ったのは多分高校2年で、思想家ではなく、荒地派の詩人としてであった。
当時の孤独な少年の心に大変合った抒情的な詩人としてである。
その後、彼が戦闘的な思想家であることを知って驚いたが、新刊が出ればまず間違いなくすぐに買って読んできた。

だが、約15年近く前の『アフリカ的段階について』を読み、「もう吉本を読む必要もないな」と思った。
そこで彼が描くアフリカは、現在のアフリカではなく、昔のアフリカに思えたからだ。
1980年代末のワールド・ミュージック以降、現在のアフリカの文化や社会を、ポピュラー音楽を通じて実際に想像している我々のアフリカ像の方が実像に近いに違いないと思えたからである。

吉本に大きな影響を与えた人間に、劇作家の三好十郎がいたことを書いておく。
それは、NHKの『三好十郎特集』で自ら言っていたが、吉本は若い頃、三好十郎の「非共産党マルクス主義」の立場に大きなヒントを得たそうだ。
非共産党左翼でも良いが、今から見れば随分と滑稽だが、「反体制的立場が、日本共産党以外にありうるのだ」というのは戦前、戦後の日本で、実は到底思いつかない「目からウロコ」の発想で、大変重大なことだったのである。

その上で、例えば大島渚の映画、早稲田小劇場の鈴木忠志の劇、あるいは昨年亡くなられた音楽評論家の中村とうようさんの評論活動もあったと私は思うのである。
一口にして言えば、自分それぞれの立場で、芸術文化活動はやってよく、日本共産党のごとき「司令部」のご指示によってやるようなものではないという当たり前ことである。
私にも多大な影響を与えてくれた思想家、詩人の死去に心からのご冥福を祈る。

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