掛け声のない歌舞伎なんて

日曜日、北中正和さんの出版記念イベントの前は、フィルム・センターが今やっている「発掘されたフィルム」を見に行ったのである。
この日は、昭和25年に国産カラーフィルムのテストとして撮影された吉右衛門、幸四郎(いずれも先代)の『熊谷陣屋』(東劇)と『寺子屋』(名古屋御園劇場)で、カラーのテストと言ってもほんの一部である。『寺子屋』の前に住田英二監督のやや際もの的な(浮世絵に合わせ女性の裸体も出る)浮世絵の短編映画『歌麿』も上映された。
だが、2本の監督はマキノ雅弘で、カメラにも先日亡くなられた岡崎宏三さんがスタッフとして入っている立派なもの。
同時録音だが、一部口と台詞が合っていない。後から入れたのか。
歌舞伎の型について私は専門外だが、極めて楷書的な基本的な演じ方のように見えた。先代の吉右衛門は義太夫狂言を古典的に演じた人だと言うことがよく分かった。不完全でも名人の芸が見られるのはうれしい。六代目菊五郎は昭和24年に死んだが、全く映像が残っていないのだから。
どれも、普通の公演ではなく、劇終了後に特別に撮影用に演じたためか、客席から掛け声が全くかからない。そのためなんとも盛り上がらずに幕となる。
歌舞伎は観客も劇の一部なのだと改めて感じた。歌舞伎は本当にすごい。

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