川島雄三はなんでこんな映画を作ったのか 『真実一路』

川島雄三監督の『真実一路』を見たいと思ったのは、先日ラピュタで『グラマア島の誘惑』を見たからである。
これは、完全に反天皇制、反米の映画だった。
その川島雄三が、なぜ『真実一路』のような真面目で道徳的な作品を作ったのか、不思議に思ったのだ。
実は、前に途中まで見たのだが、お説教が多くてうんざりし、途中で見るのが嫌になったのだ。

『真実一路』は、山本有三の原作で、戦前に田坂具隆の監督で作られている。
話は、主人公の少年義夫の正義感、佐田啓二と桂木洋子が説く嘘を付かない生き方、そして本当は義夫の母親だが、父親の山村聰と離婚したため、母と名乗れず、「おばさん」と呼ばれている女淡島千景の悲劇的人生である。

出てくる大人は、しきりに義夫に「嘘はいけない」と言う。
だが、実際に大人たちは嘘ばかりを行なっている、その矛盾。

多分、川島雄三が描きたかったのは、道徳的説教ではなく、そうした人間の言行の不一致や矛盾で、その化身が、淡島千景である。
彼女は、恋人との間に、桂木洋子を孕んだ。
だが、家の者に結婚を反対された上、恋人が死んでしまい、事情をすべて了解してくれた真面目なサラリーマンの山村聰と結婚し、桂木を引き取り、義夫を生んだ。
だが、どうしても石部金吉の山村を好きになれず、家を出て、発明家を自称するいい加減な男須賀不二男と同棲し、浅草あたりでバーをやつている。
この淡島のしっかり者の女とダメ男というのは、淡島が森繁久弥と共演した、豊田四郎監督の『夫婦善哉』の男女関係によく似ている。
だが、この『真実一路』では、結果は悲劇で、淡島は須賀と心中する結果になる。

心中の後、二人のお骨を胸に抱いた桂木洋子と淡島の弟の多々良純が、長く続く道を歩くシーンが川島らしい映像的テクニックを見せる。
初め、ずっと遠くに二人が見え、そこに急速にカメラが近づいて行き、その後フィックスで二人を捉えてからトラック・バックする。
ここの多々良純と桂木洋子の台詞は面白い。
結局、「淡島千景は、正直に生きて死んだのだ」という。

義夫をいじめる同級生の父親は軍人で、これは川島の反軍国主義であろう。
嫌味ないじめっ子は言う、
「地球に傷をつける人間が偉くなる。日本も今中国でそれをやっている。だからお前も校長室に石を投げてガラスを割れ」
誠にすごく強引な理屈だが、一面当たっている。

最後、義夫は、運動会で正直に全力で走って1位になる。
嘘はいけないうと言う結論であるが、川島雄三の本音も意外にもこの辺にあったのかもしれない。
NHKBS

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする