『ナシャ・クラサ 私たちは共に学んだ』

珍しいポーランドの劇であり、1920年代以降の政治的変遷を題材にしている。
演じるのは、ポーランド東部の町イェドヴァブネの小学校の同級生男女10人。
作は、勿論ポーランドの劇作家タデウシュ・スウォボジャスキーで、演出は文学座の高瀬久男。

内容的には、我々に馴染みのないポーランドなので分かりにくい。
だが、一番違和感を感じるのは、かつてのシュプレヒコール劇のような、演技のスタイルだろう。
本当にポーランドで、このような表現方法で演じられたのかどうかは知らない。
多分、こんなに大げさな表現ではなかったと思うが、まず今時珍しい社会主義リアリズムのような演技だった。
勿論、こういうスタイルがあっても良いが、問題はそれが本当に見ている者に感情的に伝わるのかである。

題材としては、1941年6月にポーランド東部で起きたユダヤ人虐殺事件である。
事件は、1939年9月のドイツ軍の西部ポーランドへの侵攻によって第二次世界大戦が始まると、同時にソ連も東部からポーランドに侵攻し、両国によってポーランドは分割占領され、東部はそのままソ連占領地区になる。
だが、2年後の1941年、ナチス・ドイツはソ連領に侵入し、直ちに全土を占領してしまい、イェドヴァブネにもドイツ軍の将校により行政が行われる。
そうした政治的混乱の中で、ポーランド東部でポーランド人によるユダヤ人虐殺が起きる。

イェドヴァブネでも、町中のユダヤ人が狩出され、納屋に千人以上が押し込められて焼き殺される。
この同級生の中でも、納屋に入れられて死んだ者と、手を下した者、ただ見ていた者に分かれる。
また、女性への暴行事件も起きる。

戦争がドイツの敗北で終わると、再びソ連の影響下で、社会主義体制になる。
そこでも、イスラエルに亡命する者、体制下で上手く立ち回り資産を増やす者、次第に圧迫される聖職者など、様々な運命に翻弄される人々。
最後、「連帯」による自由化以降、イェドヴァブネ事件が暴露され、2001年には60周年記念式典も行われる。
ここでも、対照的な二人が式典に呼ばれる。
事件を逃れたユダヤ人女性とそれを批難するポーランド人である。

なかなかわかりにくいテーマだが、こういう題材を取り上げることは大きな意義があると私は思う。
なぜなら、こうしたシリアスなテーマを表現する方法が今の日本の演劇にはないことが暴露されてしまうからである。
文学座アトリエ

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