『開戦の前夜』

1943年、松竹で作られた防諜映画、監督は吉村公三郎、主演は上原謙と田中絹代。
上原の軍人役は珍しいが、なかなか決まっている。
実は、上原の父親は職業軍人だったのである。

上原は、憲兵で対米戦争が迫る中で、アメリカのスパイ対策を担当している。
このアメリカ人というのが、斉藤達朗と竹内良一という比較的外人のような容貌の役者だが、勿論日本人なのですべて日本語で話す珍妙さ。
東宝の反英国映画『進め独立旗』でも、長谷川一夫がインド人を演じるおかしなものがあったが。

12月8日が迫り、竹内らのスパイ一味は九州への旅行を希図し、軍港の艦船の諜報活動をしようとする。
新橋の芸者の田中絹代は、上原の依頼で、竹内と一緒に旅行することを承諾し、嘘をついて熱海で列車を下りて、天城のホテルに宿泊する。
だが、竹内も田中の意図を察知し、天城から車で駅に向かおうとする。
その途中で、田中絹代は車のハンドルに齧り付き、自動車は崖から転落し、スパイの活動は、田中の尊い犠牲によって食い止められる。

その朝、米国への開戦が報じられる。
街頭では、開戦を祝う『愛国行進曲』の下、国民の大行進が行われていた。
この作品の途中で、監督の吉村は徴兵されたので、残りは助監督の木下惠介らが撮影したそうだ。
衛星劇場

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