『南の波と風』

1961年に公開された橋本忍の監督作品、橋本は著名な脚本家だが、この前にもフランキー堺主演の『私は貝になりたい』も東宝で監督していて、評価も高かった。
この『南の波と風』は、ほとんど上映されないが、西村晃特集で上映されたので見に行く。

高知の、さらに辺鄙なところにある田舎の町、そこはかつては漁業で栄えたが、今は魚も取れず、住民は零細な漁業と、その手伝い仕事で生計を立てている。
現在で見れば、住民の半分くらいは、生活保護世帯という感じ。

機帆船の船長の西村は、村では少ないかなりの現金収入のある家庭で、妻の新珠三千代と3人の子供、さらに病身の母親飯田蝶子を抱えているが、幸福な日常をおくっていた。
船には、藤原鎌足の孫の夏木陽介の他、小池朝雄らが乗っていて、夏木は、菅井きんの娘星由里子と恋仲である。
その他、多くの役者が出ているが、東宝の大部屋の役者と無名の新劇俳優なので、よく分からない人が多い。

そして、ある日、大阪港に向け鋼材を積んで航海に出るが、室戸岬沖で風で沈んでしまったとの報が来る。
そこには、未亡人荒木道子の子で、15歳の少年も初航海で乗り込んでいた。

出航の前夜、祭りの夜に夏木とできて妊娠した星由里子は、悲嘆に暮れる。
母の菅井きんは、不始末をなじり、夏木の爺の藤原は、「わしの血を引く孫を産んでくれ」と言うが、星は町で妊娠中絶手術をして来てしまう。

村には、新聞記者の加藤和夫や児玉清が押しかけて大騒ぎになるが、すぐに元のなにもない村に戻る。
新珠三千代も星由里子も、砂浜で地引網の作業に元気に働くのである。

ここで描かれているのは、勿論絶対的な貧困だが、同時に一種の性的アナーキズムであり、女のたくましさ、強さである。
そして、この視点は、脚本の原作を書いた中島丈博によって、黒木和雄監督の傑作『祭りの準備』で、より濃密に、抒情的に表現されることになる。
橋本忍の監督作品としては、カルト映画『幻の湖』があまりにも有名だが、この地味な作品の方がはるかに出来の良い映画であり、こういう地味な映画ができたのは、当時の日本映画界の力の現れである。

『幻の湖』は、公開前は東宝50で、大宣伝されたが、大ずっこけ映画で、その後長い間上映されなかった。
私が見たのは、随分後に大井武蔵野で見たが、前半はどうなるのかと皆真面目に見ていたが、ともかく後半は、館内が爆笑に続く爆笑だった。

ラピュタ阿佐ヶ谷

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