『女の細道・濡れた海峡』

評判の高かった作品だが、なかなか見られなかった。
監督の武田一成の名が比較的地味だからだろうが、日活ではポルノ以前から監督をしている一人で、何を撮っても手堅くまとめる能力のある手腕のあった人だったと思う。

評判通りレベルの高い作品で、とぼけた味のある不思議な映画だった。
確か武田は、フランスに私費留学したこともあり、意外にもフランス映画のような感じもある。
脚本は、田中陽造で、さすがだった。
途中で「原作は、田中小実昌か」と、三上寛が、「ポロポロ」と言うのをトイレに中で言うのを聞いて分った。
ポロポロとは、パウロのことだそうで、田中の小説の題名である。

三上寛はストリッパーの山口美也子と、夫でヤクザの草薙幸二郎の小屋に行き、
「できたので一緒になりたい」と告げるところから始まる。
この衣装バックを担いで歩く二人は、神代辰巳の名作『かぶりつき人生』みたいだなと思うが、この原作も田中小実昌だった。

田中小実昌は、映画好きで有名だったが、出ることも結構お好きで、ストリップのインチキ記録映画、代々木忠監督の『名器の研究』では、狂言回し役も演じている。
草薙幸二郎がヤクザ役と言うのが面白い。
この人は、アクション時代の日活に多数出ている人で、劇団民芸なのだが、数年前に亡くなられた。
その他、三上寛が偶然に出会い、できてしまう女が、演劇センター・黒色テントの桐谷夏子、その愛人の漁師が石橋蓮司、山口美也子も黒テント出身とアングラ系の役者が出ている。

この桐谷・石橋と出会うところが傑作である。
草薙の子分たちにボコボコにやられた三上寛は、別の町にバスで行き、うらぶれた居酒屋に入る。
そこは無愛想な婆さんが一人でやっていて、酒以外には、つまみは何もなく、三上が「何かないの」と再三言うと、
「うるせえな!」と後ろの障子が開き、「これを食え!」と干物が突き出される。
それが、くんずほぐれつの石橋と桐谷なのである。

最後、連中は、漁港の宮古に行く。
フーテン連中なので、ずっといたとは思えないが、去年の3月11日をどのように迎えたのだろうかと、俯瞰のシーンを見てふと思った。
シネマ・ジャック

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