『日本の夜・女・女・女物語』『賛歌』

武智鉄二特集も最後、この『日本の夜・女・女・女物語』は、言うまでもなくイタリア映画『世界残酷物語』にはじまるモンド映画で、ほとんどがヤラセのドキュメンタリーで、途中で寝てしまった。
監督が一応武智鉄二になっており、彼が映画界に関わった最初なのである。
映画界に関わった最初がモンド映画だったのは、さすが武智鉄二というべきだろうか。
この映画の製作は、佐野博重で、この人は山本富士子のマネージャーだった方で、千谷道雄の『幸四郎三国志』には、かなり特異な人間として描かれている。
1963年の冒頭に、山本富士子は、大映との契約がもめて退社してしまい、当時の映画界の五社協定によって映画に出られなくなる。
そして、この山本の大映退社は、後の市川雷蔵の死と共に、1971年の大映倒産の遠因となる。
その時、大映の永田雅一社長は
「おふじさんは悪くないが、あのマネージャーがよくない」と言っていたそうだ。
そして、この1963年に、佐野氏は、自身のプロダクションを作り、このモンド映画や、松竹で公開される地味な戦争映画『駆逐艦雪風』を製作する。

同時上映の新藤兼人脚本・監督の『讃歌』は、谷崎潤一郎の『春琴抄』を映画化したもので、公開当時に渡辺督子の裸姿の予告編をさんざ見せられたので、見た気になっていたが、見ていないもので、かなり面白かった。
谷崎の原作があるので、さすがの新藤も勝手に脚本化できず、忠実に映画化している。
新藤自身が出てきて、女中だったという乙羽信子に、春琴と佐助のことに聞くという形式になっている。
春琴は、文学座の研究生で、日活のロマンポルノ等にも出た渡辺督子で、絶世の美女ではないが、スレンダーな体はかなり美しい。
佐助は、河原崎三兄弟の河原崎次郎で、春琴に尽くすだけという「しどころのない役」をうまく演じている。
その他、金持ちのボンボン役で原田大二郎、春琴の父親に武智鉄二、母親に初井言栄など、ATG映画としては、結構豪華な配役だが、なによりも戦前だろう日本家屋がすごい。
一体どこにあったのか不思議だが、大きく立派な厠は、すごい。
多分、関西の戦災をまぬがれた屋敷なのだろうが、このあたりは武智鉄二のネットワークのような気がする。

この映画の原作『春琴抄』も、作者の谷崎が、春琴のことが書かれた和綴じ本を見つけて、という語り口になっていて、実話のようにされている。
だが、これは完全なフィクションであり、春琴などという女性はいなかったのである。
それは、明らかに春琴と佐助の、サド・マゾ的関係を至上のものとしたい谷崎潤一郎の願望が生んだ小説なのである。
シネマ・ヴェーラ渋谷

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