『赤い殺意』

この傑作を見るのは3回目だが、やはりすごい。

今村昌平の映像技術の最高峰だろう。

家に戻って撮影の姫田真佐久の本を読むと、「これは手を加えているのでは」と思うところは、すべてテクニックで作り上げたものだった。

主人公の春川ますみが、夢の中で無人の路面電車から露口茂と相合傘になり、そこに大雪が降ってくるところは、道路の上にカゴを設置して雪を降らせたのだそうだ。

また、露口が死んでしまうトンネルの入口に小山のように積もっている雪も、東京から大型扇風機を山の中まで工事現場のブルトーザーで運んできて、その威力で作りあげたものだそうだ。

つまり、あの映画の中でリアリズムのように見えている名シーンの多くは、映画美術で造形されたものだったのである。

「今村組に不可能はない」と後のチーフ助監督磯見忠彦は言ったそうだが、本当にその腕力の強さは黒澤明以上だったのではないだろうか。

春川ますみ、西村晃、楠侑子、北村和夫、赤木蘭子、北林谷栄、近藤宏らのキャステイングも最高だが、一番良いのは息子で、異常に頭が大きくて、さいずち頭で、まるで小人のようにさえ見える。

今の子供にあのような不格好なのはほとんど見ないが、あの子も恐らく今村の好みで選んだのだろうと思う。

春川に、若い頃夜這いをかけた男が先日亡くなられた小沢昭一で、ここは館内大爆笑。

黛敏郎の音楽は、映像に比べてかなり控えめであるが、それも今村への賛辞にちがいない。

ともかく、この『赤い殺意』、次の『「エロ事師たちより人類学入門』は、ロマンポルノの先駆的作品である。

だから、この『赤い殺意』のチーフ助監督は遠藤三郎で、『人類学入門』は、田中登で、共にロマンポルノで大活躍するのは、当然だった。

フィルムセンター

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