『女の一生』

1962年、大映で作られた作品、原作は言うまでもなく森本薫、脚本は八住利雄、監督は増村保造、主人公の布引けいを演じるのは京マチ子である。

『遥かなる走路』が、近代史を適当に描いているとすれば、こちらは厳密に背景としている。

女の一生と言うよりも、女に象徴される庶民の近代史である。

最下層の孤児だった京マチ子は、偶然に中国貿易の商社堤家の養女になり、次第に家の中で重要な存在になっていく。

長男の新太郎は高橋昌也、次男の英二は、田宮二郎、叔父は小沢栄太郎。

この3人の男たちは、インテリであり、中国の事情をよく知っていて、日本、軍隊、そして堤家が行っている中国進出に批判的である。

高橋は中国文学を通じて、田宮は中国人留学生から、小沢は中国での馬賊の経験からである。

何も実態を知らない京マチ子の布引けいは、政府と軍の言うままに中国貿易を拡大し、最後は破産し、残った屋敷も空襲で焼失してしまう。

戦後、獄から出た田宮と京マチ子は、再会するが。

京マチ子の演技は、随分と抑えているように見える。

言うまでもなく、布引けいの役は文学座の杉村春子のものであり、彼女のご存命中は他の女優は演じられなかったのである。

その後は、平由恵が演じているようだが。

男、つまりインテリは実態をわかっていたが、戦争への道を防ぎきれず、女、すなわち庶民は、国の言うとおりに戦争に狂奔して敗北した。

このようにこの作品は明確に言っていると思う。

神保町シアター

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