『ひばり・チエミの弥次喜多道中』

東京の森下にある渡辺信夫さんがやっている個人図書館・眺花亭での月1回の映画会に行く。

今回は、1962年1月の東映の正月映画、美空ひばりと江利チエミ主演の時代劇ミュージカル『ひばり・チエミの弥次喜多道中』である。

監督はサワチュウこと沢島忠で、共演は東千代之介、千秋実、河野秋武、山形勲、加賀邦夫らで、台詞なしのちょい役では、汐路彰も見えた。

弥次喜多道中ものは、多数あるが、これは以前に中村錦之助・賀津夫兄弟で作った弥次喜多道中のリメイクでもあるだろう。

江戸の歌舞伎小屋の下足番のひばりとチエミが、江戸市中にはびこる麻薬売買団を追って京都まで東海道を上る。

随伴してくる法界坊、実は南町奉行の与力が東千代之介で、その部下は千秋実、悪の親玉は山形勲で、その手下は加賀邦夫。

ともかく驚嘆するのは、ひばり・チエミ二人の歌が圧倒的にうまいことである。

音楽はひばりの名作『車屋さん』の米山正夫で、ジャズ、ラテン、バラード等を存分に二人に歌わせる。

時代劇なのになぜジャズなの、などとバカなことを言ってはならない。沢島の『一心太助』では、神経衰弱の台詞まで出て来るのだから。

沢島は、中村錦之助、美空ひばりらのヒット映画の監督で、1963年には鶴田浩二主演で『人生劇場・飛車角』で、東映ヤクザ映画路線を始めた。

『続・人生劇場・飛車角』さらに『人生劇場・新・飛車角』と大ヒットを飛ばす大功労者である。

だが、ヤクザ映画全盛時代に皮肉にも、鶴田浩二と俊藤浩二一家に東映から追い出されてしまう。

当時、東西撮影所の合理化を進めていて、高給ベテラン監督を整理していた岡田茂の路線ともすれ違ってしまったのだろう、1967年に退社する。

美空ひばりの公演で評価された東京映画、そしてコマ・プロダクションに行くが、あまり大した映画作品はなかった。

結局、沢島忠は、マキノ雅弘、井上梅次などと同様、「座付き作者」であり、彼自身の創作欲と言ったものよりも、役者から想起されて作る監督なのだ。

その意味で、中村錦之助、美空ひばりと言った本当の役者を失った時、彼の意欲もなくなってしまったのだろうと思う。

実は、沢島忠さんは、まだお元気で、この映画のメインのスタッフ・キャストでご健在なのは、監督の沢島忠だけに違いない。

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